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「維新を乗っ取り玉木を出し抜く」前原誠司の野望は実現するか?めざすは総理、負ければ冷や飯、政権奪取を阻む過去の不義理

「政治家である限り、総理大臣をめざすのは当然」と公言してきた前原誠司氏(62)が日本維新の会の共同代表に就任した。ひさびさに訪れた“俺のターン”をどう利用するつもりか。「いずれ維新を“乗っ取る”くらいの意気込み」かもしれないとみるのは元全国紙社会部記者の新 恭氏。立憲や国民民主との間に遺恨が残る前原氏は、維新にしがみつくしか浮上のチャンスがないという。ただ、過去の不義理がたたって他野党の反応は冷ややかなようだ。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:維新“乗っ取り”から政権奪取へ。前原の野望に成算はあるのか

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前原誠司氏が日本維新の会「共同代表」に

12月2日、国会内で開かれた日本維新の会の両院議員総会は、馬場伸幸前代表の退任あいさつのあと、司会者の次のような発言ではじまった。

「昨日、大阪で臨時党大会が開かれ吉村新代表が決定した。吉村代表から衆院議員の前原誠司さんを共同代表に推す強い意思が示され、先ほどの役員会で発表した。それでも自分が共同代表にふさわしいという人は挙手してください」

むろんそんな型破りの人物が維新にいるはずがない。何ごともなく、先の衆院選の直前に入党したばかりの前原氏が無投票で国会議員団を率いる共同代表に選出された。幹事長、政調会長、国対委員長、総務会長に起用されたのはいずれも今はやりの「若手」だった。

「第2自民党でいい」と公言してはばからない馬場前代表のままだと、維新は来年の参院選でも苦戦は免れない。大阪から代表交代を望む声があがり、吉村氏が新代表に選ばれたのはよくわかる。

だが、ベテラン政治家とはいえ維新では新参者にすぎない前原氏が、どうして共同代表のポストを手に入れることになったのか

なにしろ前原氏には、ライブドア事件にからむ偽メール事件(2006年)で民主党代表辞任に追い込まれたり、外国人からの献金問題で外務大臣を辞任(2011年)するなど、“ツキのない政治家”のイメージがつきまとう。

「総理をめざすのは当然」前原氏に巻き返しの好機到来

それでも、国会活動の中核を前原氏に託さざるを得ないのは、大阪色が濃すぎるうえ自民党寄りとみられて全国政党になりきれない今の維新の苦境を物語っている。だが、前原氏にとってみれば、長い長い低迷期を抜け出るチャンスがいよいよ到来したということだ。

「政治家である限り、総理大臣をめざすのは当然」と前原氏は言う。2017年10月の総選挙をまえに、小池百合子都知事と手を組み、希望の党と民進党の合流で政権奪取を狙ったのも、いつかは大望をかなえたいという思いがあったからだろう。

しかし、その選挙で自民党の圧勝を許し、希望の党から排除された枝野幸男氏らリベラル系議員が新たにつくった立憲民主党に野党第一党の座を奪われた前原氏は、勝負どころの政治カンに疑問符がつけられ、政治家としての信用を大きく失墜した。

今の国民民主党が誕生してからも、党内における前原氏の勢力はいっこうに広がらず、2023年8月に行われた代表選では、玉木雄一郎氏に大差で敗れてしまった

【関連】国民民主・玉木氏の「企業・団体献金禁止」めぐる本音と建前。自民への配慮と野党一致、いいとこ取りはどこまで可能か

玉木代表は22年度の当初予算に賛成するなど自公寄りの政策を進めていた。前原氏はそれに反対し、日本維新の会との選挙協力を主張した。22年7月の参院選京都府選挙区で前原氏はその姿勢を自らの行動によって示した。日本維新の会の新人候補を全面支援し、長年盟友関係にあった立憲の福山哲郎候補と敵対したのである。

橋下徹氏の影響で維新に傾斜していった前原氏

維新に傾斜してゆく前原氏。その端緒は民主党政権の国土交通大臣だった2010年に開かれた。

1兆円超の債務を抱えていた関西国際空港。一方、騒音問題で廃止が検討された大阪(伊丹)空港は経営状態が良好だった。そこで前原大臣は、伊丹空港を株式会社化し、持ち株会社を新設して関空と経営統合させるプランを地元に提示した。

これに対し、当初は廃港を主張していた当時の大阪府知事、橋下徹氏が意見を変えて賛同し、2012年4月1日、新関西国際空港株式会社が誕生した。この協議の過程で、前原氏と維新の創設者である橋下氏の相互理解が深まったらしく、その後、二人の交流が続いてゆく。

22年の参院選における前原氏の行動は、こうした経緯を抜きに考えられない。その選挙期間中、前原氏と福山氏をよく知る京都府議が、テレ朝「報道ステーション」の取材にこう答えている。

「(前原氏を変えたのは)橋下徹さんが登場してからですね。橋下さんと交流されているというのはですね、知っていましたし、私は言いました。これは注意して行動したほうがいいと。だけどそのころから、橋下さんと親密性が増していったようで」

翌23年8月の国民民主党代表選に敗れた前原氏は、ついに党を飛び出す決断をした。党の代表代行という肩書はあっても、党内に居場所がなくなったからだ。同11月30日に3人の仲間とともに離党届を提出、無所属議員を合わせた5人で「教育無償化を実現する会」を結成して、自ら代表に就いた。もちろん維新への合流が念頭にあったに違いない。

そのころ、アベマニュースにおける橋下氏との対談番組に出演した前原氏は、「教育無償化を実現する会」結党の趣旨についてこう話した。

「旧民主党で一緒にやってたメンバーで保守的な人はみんな自民党へ行った。私はなんとか政権交代可能な状況をつくりたい。そのテコとして教育無償化をやりたいということなんですよ。教育無償化に賛成する野党間で候補者調整ができれば政権交代できると思う」

5人で何ができる、大それたことを言うな、という見方もあっただろう。しかし本人は大真面目だった。

「前原維新」と国民民主党は本当に意思疎通できるのか?

国民民主党の榛葉賀津也幹事長は、離党届が出された日の会見で、憮然とした表情を見せた。

「私たちは離党届をまだ受け取っていません。離党届を投函したらしいですね。政党交付金が目当てなのかわかりませんが、年の暮れに新党をつくろうとする。もう有権者はうんざりじゃないですか。残念だし寂しい気持ちがしましたね。昨日前原さんと話した時、(報道されているように)離党なんかするわけないよとみんなの前ではっきり言ってましたからね。代表や私にもなにも説明がない。筋が通らない

前原氏の不誠実な離党の仕方に憤りを隠せない様子だった。おそらく榛葉幹事長には、「新党結成~維新への合流」という道筋を描く前原氏の腹のうちが見えていたのではないだろうか。前原氏は離党届を受理されず除名処分とされた。

前原氏は維新にしがみつくしか浮上のチャンスをつかむ方法はないと思っているのだろう。悪しざまにいえば、いずれ維新を“乗っ取る”くらいの意気込みなのかもしれない。だが、維新の国会議員団をしっかりまとめることが前原氏にできるのだろうか。所詮、維新生え抜きの議員から見ると前原氏は「よそ者」にすぎない。しかも、吉村代表ら大阪組の発言力は東京組を上まわっている。

要は、全てがこれからの実績しだいということになる。自らの手で国政における維新の政治的価値を上昇させ、前原なしに維新が成り立たないような状況に持っていくしかない。

前原氏は「非自民・非共産」の大きな塊による政権交代の必要性を唱えてきた。その実現には、まずは立憲、国民、維新がしっかり連携するための、相互の信頼関係がなにより大切だ。前原氏の過去の政治行動は障害とならないのか。

共同代表に選出されたあとの記者会見で、前原氏は、古巣の国民民主党について「昨日の敵は、今日の友。玉木代表、榛葉幹事長とも意思疎通ができる」と豪語した。むろん、これに対する榛葉幹事長の反応は冷ややかだった。

「どこかの記事に、(前原氏が)過去を乗り越えて共に協力していきたいとか書いてあったね。それって、こっちが言うセリフだよね。近いうちにご挨拶があるんだろうと思います。しっかり各党等距離で対応していきたいと思います」

「前原総理大臣」誕生の可能性はいかほど?

前原氏が国民民主党との関係を修復するのは容易ではない。組織とはいっても、所詮は人間のやっていることだ。好悪の感情に左右されるのが政治の常でもある。

立憲内部でも希望の党騒動がいまだに影を落とし、前原氏に対する負のイメージは消えていない。

ただし、立憲の野田代表と前原氏は日本新党以来、盟友として歩んできた仲だ。立憲嫌いの馬場前代表とは違って、立憲・維新の距離が近づく可能性はある。橋下氏が言い出した一人区での「予備選」を行い野党候補の一本化をはかろうという動きが参院選に向けて出てくるかもしれない。

それでも野党の連携について先行きが不透明であることに変わりはない。むしろ、前原氏が自らの最大の強みと思っているのは「安保」や「鉄道」のオタクどうし気脈の通じ合う石破首相との親密な間柄なのではないか。

吉村代表は野党の立場を鮮明にし自民党に対峙すると明言、前原氏も政権交代をめざすというが、自民党の手練手管に惑わされたら、どう転ぶかはわからない。

嫌な想像だが、国民民主を出し抜いて自公政権と取り引きする、いや場合によっては連立入りすることだってあり得るだろう。たとえば「維新のトップを総理にするから連立を」と誘われたら、どうなるのか。“前原総理”が誕生する?・・・まさか。

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