シリア「アサド政権崩壊」は世界戦争へのトリガーになるか?トランプが手にした“対プーチン”の有力な交渉カード

 

トランプ次期大統領がシリアから距離を置く2つの理由

アメリカのバイデン政権は「アサド後のいかなる勢力とも対話の用意があり、平和なシリア作りのために力を注ぐ」として、こちらも国づくりへの関与を明言しているものの、かつてイラクやアフガニスタンで国づくりに失敗し、結果、内戦を再開させてしまったことに鑑みると、あまり期待はできないかと思われます。

それに加えて今回の事態を受けて、トランプ次期大統領は「アメリカはシリアに関わるべきではない」と発言し、距離を置く姿勢を見せています(とはいえ、前政権時にトマホークミサイルを60数発シリアに撃ち込んだ大統領でもありますが、それは中国を怯えさせただけで、結果、効果が見られなかったことを、どうもトランプ次期大統領自身も気づいているようです)。

トランプ次期大統領がシリアから距離を置こうとしているのには、いくつか理由がありそうです。

一つ目は前政権時から繰り返していた“アメリカの非介入主義”の徹底です。

実際にアフガニスタンやイラクから米軍を完全撤退させたのは、後任のバイデン政権でしたが、トランプ氏は前政権時には「アメリカ人の血を他国の問題のために流すのは許さない」と任期中、新たな国際問題への軍事的な介入は控えましたし、その背景にはAmerica Firstで、アメリカ国内の問題、特に経済問題に力を注ぐという方針がありました。

そのターゲットとして利用されたのが中国やメキシコでしたが、どちらとも軍事的な対峙は望まないとのクリアな方針を貫いて、経済戦争を仕掛けていました。

今回、非介入の方針を継続するつもりであれば、アメリカをまた中東の泥沼に引き戻しそうなシリア情勢には直接的な関与はしないということになります。

二つ目は、どう転ぶかまだ分かりませんが、イスラエルへの配慮が考えられます。

アサド大統領がロシアに逃亡し、政権が崩壊するや否や、イスラエルはダマスカスに空爆を行い、続いてシリアとイスラエルの1970年代以降の係争地で、イスラエルが実効支配してきたゴラン高原のコントロールを確実なものにすべく、1万1,000人規模の地上部隊を送って、その支配を確実なものにしました。

それについてトランプ次期政権が支持するかどうかはまだ不透明なのですが、「地域のことは地域で解決すればいい」という方針を示すのであれば、イスラエルの責任でイスラエルがしたいようにさせるのではないかと考えます。

その場合、イスラエルのシリアに対する影響力は高まりますし、ヒズボラの弱体化に伴って、隣国レバノンへの影響力も高まることで、ガザの問題を何らかの形で終わらせることが出来れば、一応、物理的に近接する“敵国”を排除し、イスラエルの“懸念”をしばらくの間は払しょくできると踏んでいるのだとしたら、アメリカが望む中東地域からの脱却を可能にする状況が作れるという計算もあるのではないかと感じています。

ただ、イスラエル軍によるゴラン高原への攻撃と侵攻は、アラブ諸国の激しい反発をすでに引き起こしており、スンニ派諸国の雄であるサウジアラビア王国は「シリアが安全保障を回復する機会をイスラエルは阻害し、かつ地域の平和を脅かす蛮行である」と激しく糾弾し、それにUAEなどの国々が追従する形をとっているため、これがもし単なる外交的な圧力に留まらない対峙に発展した場合、今後、一気に中東地域の軍事的な緊張が高まる恐れが懸念されます。

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