シリア「アサド政権崩壊」は世界戦争へのトリガーになるか?トランプが手にした“対プーチン”の有力な交渉カード

Newark,On,Trent,,,Nottinghamshire,,,Uk,09,Dec,2024
 

反政府勢力の蜂起からわずか10日あまり、12月8日に崩壊したシリアのアサド政権。「今世紀最大の人道危機」とも呼ばれるシリア危機を引き起こしたアサド氏の失脚は全世界で大きく報じられましたが、この事態は国際社会にどのような影響を与えるのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、周辺各国や欧米、ロシア等の思惑を読み解きつつ、予想される今後の動きを考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:世界の火薬庫・中東地域の緊張激化と大きくなる世界戦争の足音

アサド政権崩壊という衝撃。「シリアの政変」は世界戦争の扉を開けるのか

「アサド政権崩壊」

ジュネーブから帰国していきなり飛び込んできたのが、このニュースでした。

11月末から北西部イドリブから大規模攻勢をはじめ、アレッポやハマといった要衝を次々に陥落させ、一気に12月8日首都ダマスカスを制圧し、アサド大統領が職を辞してモスクワに逃れたことを受け、約半世紀続いたアサド家による独裁政治にピリオドが打たれました。

そして2011年から始まった残虐極まりないシリア内戦も終わりを迎えました。伝えられるところによりますと、2023年末の段階で51万人ほどが内戦で命を落とし、約640万人が周辺国や欧州各国に難民として国を離れるという、まれにみる悲惨な内戦でした。

今回、アサド大統領が国外に逃れ、独裁に終止符が打たれたことで、難民の帰還が始まる見込みとのことですが、アサド政権を打倒した反政府勢力がシリアに平和を取り戻すことができるかどうかは不透明です。

それは今回の作戦を主導したのが、HTS(シャーム解放機構)と呼ばれる組織で、アルカイダを源泉とするため、欧米諸国からはテロ組織認定されており、今後、このHTSがどのような役割を新しいシリアで果たしていくのかによっては、さらなる混乱材料になるかもしれません。

シリアを離れる際、アサド氏は政権のジャラリ首相に「円滑かつ平和的な政権移譲を行うように」との指示をし、ジャラリ首相はこのHTSのリーダーであるジャウラニ氏とも連絡を取って、今後のことについて協議しているそうですが、その先行きは不透明です。

かつてのイラクのように、フセイン政権を打倒した際、明確な後継者をイメージしていなかったため、群雄割拠の状態が起き、もともとあった部族間・宗派間の争いが激化して、互いに血で血を洗う内戦に発展した結果、ISの付け入る隙を与えたという恐ろしい前例が繰り返される可能性は否定できないのではないかと感じています。

「アサド政権を打倒する」という旗印の下、様々な反政府勢力が結集しての攻撃ですので、その目的達成後、誰がどのような未来を描いているかによっては、新たな内戦を呼ぶことになりかねません。

特に今回、シリアの反政府勢力を支援していたのが、アサド政権と対立していた隣国のトルコであると思われ、今回、アサド大統領を追い出した後のシリアの国づくりにいろいろな形で関与しようとしてくると思われます。

640万人に上るシリア難民のうち、300万人以上を受け入れ、シリアから逃れてきた人たちを国境沿いに難民キャンプを作って収容していましたが、早速、シリアへの帰還を(支援までつけて)促し始め、トルコ政府の高官によると「基本、シリアの今後はシリア人が決めるべき」と言いつつも、「必要であれば、トルコ政府は全面的にシリアの復興と治安の回復に貢献する用意がある」と介入・関与の方法を探っているようにも聞こえます。

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