反政府勢力にとって「明らかな敵」であるロシア軍
今回の反政府勢力によるダマスカス制圧と、アサド政権打倒によりはっきりするのは、反政府勢力にとって、これまでアサド政権側に立って、自分たちに対して爆弾の雨を降らせ、ずっとイドリブに閉じ込めたロシアとロシア軍は明らかな敵であることは間違いありません。
ゆえにロシア軍もアサド政権から借り上げていた港から艦隊を沖合に脱出させ、空軍基地からもロシア軍機を脱出させて、非常事態に備える決定を下しています。
HTSを含め反アサド勢力にとって、ロシアと今、手を結ぶ利益はないため、直接的な攻撃まではしないにせよ、ロシアの影響力をシリアから排除する動きに出るのではないかと考えます。
ちなみにロシア政府は、シリアの拠点をアフリカ大陸へのアクセスポイントとしており、ロシアが再びグローバル・パワーに回帰するためには欠かせないものと認識しています。
それを認識して、もしトランプ次期大統領がプーチン大統領に対して、ウクライナでの戦争処理への協力と、ロシアがイランなどへの支援を行わないことを条件に、シリアでの権益保持に口を挟まないとか、黙認するといったようなディールを持ちかけるというシナリオが考えられますが、これは私のただの妄想でしょうか?
それをロシア側も認識して、ちょうどこのコラムを書いている時に、カタール・ドーハでシリアに影響力を行使できる国々―トルコ、ロシア、イランの外相たちが集ってシリアへの対応を協議しているようです。
その内容は流れてきませんが、アメリカ政府による介入への対処法、ポスト・アサドの政権作りに向けた意見交換と支援のオプション、それぞれの取り分の協議などが行われているのではないかと思われます。
それに加え、中東における緊張の高まりへの対応を包括的に協議するために、いかにイスラエルと話しをまとめるか、ということにも触れているのではないかと想像します。
イランがここにいるので表立ってイランとイスラエルの外相が会うということはないと思われますし、トルコのエルドアン大統領がネタニエフ首相をナチス扱いした舌禍もあり、イスラエルとトルコの外相も表立っては会えないと思いますが、ロシアが間に入り、イスラエルにも影響力を及ぼして、水面下で何らかの、アメリカ抜きの、ディールメイキングをするかもしれません。
もしかしたら、ちょうどサリバン大統領補佐官(安全保障担当)が中東を訪問するタイミングと重なりますので、アメリカも交えて、密談が開催されるのかもしれないと、勘繰りたくなる見事なタイミングでもあります。
ちなみに今、イスラエルも含め、いろいろな情報交換が嵐のように行われていますが、イスラエルも「アサド政権の崩壊はチャンスであると同時に、重大な危険もはらんでおり、慎重かつdecisiveな対応が必要だ」との認識を示して警戒し、そしてシリアの“安定化”に寄与できそうな国や勢力との協議を急いでいるようです。
ただ“重大な危険を認識しているが故のdecisiveな対応”こそが、恐らく空白を突いたゴラン高原への軍事侵攻であり、反政府勢力が集まるダマスカスへの空爆であるのではないかと、いろいろな情報を踏まえて、感じています。
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