シリア「アサド政権崩壊」は世界戦争へのトリガーになるか?トランプが手にした“対プーチン”の有力な交渉カード

 

アサド政権崩壊がトランプに与えた対プーチンの有力な交渉カード

積極的な関与と口出しを欧州にさせない理由が、欧州自身、直接的な安全保障上の懸念であるウクライナ情勢とロシアとの緊張の高まりにリソースを割いており、今、イスラエルを核とした中東情勢の不安定化に、重大な懸念は示しても、実際には何ら積極的な関与ができない現状です。

特にウクライナ情勢を巡って、すでにEU内での意見の統一ができない状況がしばらく続いており、中東欧諸国やバルト三国、そして北欧諸国は、EUの古参のメンバー(すでに挙げた西欧諸国)が国内政治の不振で動きが取りづらいことに我慢できず、EUとは袂を分かって、独自の防衛政策と対ロ・対ウクライナ政策を実施しようとしています。

ウクライナ情勢においての主役はすでにポーランド、バルト三国、そしてスウェーデンに移っていると言われていますが、これらの国々もロシア絡みの自国の安全保障への対応が精いっぱいで、気にはしていても(特にスウェーデンは人道支援大国の一つですので)、イスラエルの所業に対峙し、かつガザ地域への人道支援を強行する人的・経済的・軍事的な余裕がないのが実情です。

つまり、現時点では、いろいろな懸念を表明しても、EU諸国とNATOはイスラエル絡みの問題に何ら有効な介入が出来ない状況です。もちろん、アメリカ合衆国という例外を除けば(とはいえ、バイデン大統領の任期もあと1か月ほどですので、効果的な介入は期待薄ですが)。

そうなるとイスラエルのネタニエフ首相は、期せずしてフリーハンドを得たように思われますが、それはトランプ次期大統領がどのようにイスラエルの所業を認識し、どのような対応を取るかにかかっており、100%安心とは言えません。

トランプ次期大統領周辺の外交・安全保障担当の専門家たちによると、トランプ次期大統領は本気で中東からの脱却を実行しようとしており、先述の通り、シリア情勢についても、もしかしたら、良くも悪くもネタニエフ首相の期待に反して、イスラエル絡みの問題の“解決”にも積極的に関わらない可能性が高いとのことでした。

ただここの“積極的に関わらない”の意味するところは謎です。

トランプ次期大統領は、選挙戦中、「自分が大統領に就任したら24時間以内に戦争を終結させる」という発言を繰り返していますが、その戦争は、よく挙げられるウクライナ戦争のみならず、バイデン政権がてこずっている中東の情勢悪化(ガザ情勢、ヒズボラとイスラエルの武力紛争など)も対象としているとのことですが、それは「イスラエルの好き放題にさせて、その上で中東の安定の責任を負わせる」という丸投げ方式なのか、それとも就任してすぐに、ネタニエフ首相を含むすべての当事者に「自分がアメリカ合衆国大統領になったからには、戦争をすることは許さない。今すぐ戦争を止めるか、それともそれなりの代償を払うか。どちらかを今、俺の前で選べ」という形で即時“解決”を迫る形なのか。

申し訳ないのですが、私にはこれくらいしか思い浮かびませんし、仮にこの選択肢が正しいとしても、どちらが選択されるのかは分かりませんが、どちらもあり得るなあと感じて、一応の準備はしています。

ただ、一つはっきりしているのは、今回のシリアのアサド政権の崩壊と、ロシア政府によるあからさまなアサド前大統領への支援は、トランプ次期大統領に対プーチン大統領の有力な交渉カードを与えたのではないかということです。

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