シリア「アサド政権崩壊」は世界戦争へのトリガーになるか?トランプが手にした“対プーチン”の有力な交渉カード

 

アサド政権崩壊で「損」を被りそうな欧州各国

今回のシリアでの出来事は、

【ロシアがウクライナにてこずっていることでシリア防衛に手が回らなかったこと】

【シリアのアサド政権と盟友関係にあったヒズボラも、イスラエルとの戦争で弱体化し、シリアに力を割く余裕がなかったこと】

【シリアのアサド政権の後ろ盾を自認してきたイランも、イスラエルとの高まる軍事的緊張に直面して、手が出せないこと】

といったように様々な要因が重なり、そこに地域のバランサーを自任するトルコが付け込んで、反政府勢力を支援して、アサド政権打倒に動いたことがあります。

ロシアはメンツをつぶされ、このままでは国際情勢における影響力拡大のために進めてきたアフリカへの進出とその足掛かりを失うことにつながるため、何らかの手を、シリアにではなく、まずウクライナに対して打ってくることが予想されます。

トルコは、すでに深くシリアに入り、アサド後の体制を作るべく、暗躍していますが、そのトルコがどの組織の誰をサポートするのかは、今後を占ううえで非常に大きなカギになるものと思われます。

そしてイスラエルは、あわよくばシリアを取ってしまい、アラブ諸国に対する物理的な壁・緩衝地帯として獲得したいと考えて、今後、シリア奥深くに入り込んでくる可能性は否定できません。

またイスラエルによるシリアおよびヒズボラ、レバノンへの攻勢は、ガザ問題の当事者であるハマスにも強いメッセージを送ることになり、今後、国際社会からのプレッシャーを受けつつも、ガザにおける停戦、人質の解放、そしてガザ地区の今後の統治などの重要問題において、少しでも有利な条件を引き出すための材料に使うかもしれません。もちろん、「イスラエルに死を」と常に叫ぶイラン革命政府への強い牽制にもなるでしょう。

特に「トランプ政権誕生で、イスラエルに追い風が吹いている」と信じ切っているネタニエフ首相にとっては、リスクは承知の上で、一気呵成にイスラエルの国家安全保障と安心の確保のためにシリアをレバノン、そしてガザ、さらにはパレスチナを押さえにかかる気配も感じられます。

今回のことで様々な意味で損を被りそうなのが、欧州各国です。シリア情勢については、内戦時に非常に大規模なシリア難民受け入れを行い、それが、今のウクライナ難民のケースと同様、各国内での亀裂と衝突を引き起こしたという大きなコストを払ったにも関わらず、恐らく今回のシリア絡みの中東における勢力図再編の輪の中にまぜてもらえない可能性が高まっています。

それは各国内における政治・経済的なスランプと、極右勢力の台頭により、他国への介入を控え、今は自国民・EUの経済的な回復に力を注ぐべきという民意が高まり、対外支援に二の足を踏みつつあります。

フランスは国内の政治的な混乱と経済のスランプ、ドイツは連立政権の事実上の崩壊を受けて、ショルツ首相の発言力がかなり低下している不安定な政治状況、英国では、アメリカへの配慮と追従の傾向が残るものの、スターマー政権は、前のスナク政権に比べて、外交面でのパフォーマンスを際立たせようとはしていない傾向などがあり、今はウクライナに対しても、中東に対しても積極的にパイを奪いに来ようとはしていないように思います。

イタリアのメローニ首相については、イスラエル軍が国連安保理決議に基づき平和維持活動をしているレバノンのUNIFIL(注:イタリアも要員を派遣)に攻撃を仕掛けたことに対してイスラエルへの批判を強めていますが、今のところ、イタリアが積極的にレバノンやシリアに関与しようとしているとは思えません。

ただし、かつてのように、中東地域の混乱、とくに地中海沿岸地域の混乱は即時に南欧、つまりイタリアなどへの難民の流入に繋がる恐れがあるため、かなり注意は払っていると思いますが、あくまでも受け身の姿勢であり、積極的に予防的な対策を、中東地域において取ろうとはしないと考えられます。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

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