シリア復興を困難にしている「あの国」のアグレッシブな態度
私も実際に携わった例を元にあるべき姿を描いてみます。
その好例は東チモールの独立です。私のボスでもあったセルジオ・デメロ氏がUNTAETのヘッドとして(国連事務総長特別代表)東チモールの独立に向けたプロセスを主導し、同時に現地のリーダーを計画から決定過程に含めることで自分事意識を持たせ、その後、じわじわと権限委譲を行って、最後には初めて行われた民主的な選挙で生まれた政府に統治権を返還することで、大きな混乱も紛争後の国造りが成功し、東チモールは今でも独立国家として成り立っています。
その対極がイラク(とアフガニスタン)のケースで、イラクでは同じセルジオが事務総長特別代表としてバグダッドに赴任し、国造りのお手伝いをしましたが、東チモールのケースと大きく異なったのは、アメリカ政府も統治機構を現地に作り、実質的に2重統治の形式が出来、大きな混乱を生んだことで、大失敗したことでしょうか(そして私たちはセルジオ・デメロをテロで失うことになってしまいました)。
今回、長きにわたる独裁政権下にあったシリアを“平和な国”に戻すには、東チモールの時のような暫定行政機構をUNが設置して準備を進めることが大事だと考えますが、当時と違い、UNが完全に分断し、安全保障理事会は機能不全に陥っている今、国連による行政統治という形式を取るのはとても難しいかと考えます。
特にシリアの今後に非常に関心を持つアメリカとロシアが安全保障理事会で対立し、フランスは国内の混乱故にマヒ状態、英国もアメリカ側と同じ態度を取るため頼りにならず、中国は関心があるものの、現行の経済のスランプを受けて、あまり今は支援活動に積極的と言えないため、あまりUNには期待できないのが現状でしょう(残念ですが)。
さらにシリアの復興を難しくしているのが、隣国イスラエルのアグレッシブな態度です。アサド政権崩壊を受けて、両国間の係争地であるゴラン高原に侵攻し、80年代以降続いている実効支配をさらに明確にし、今週に入ってその固定化のために、イスラエルからのユダヤ人入植を進めて、ゴラン高原におけるユダヤ人人口を2倍にするという法律を国会で通過させました。
またアサド政権崩壊後、首都ダマスカスへの空爆も行いましたが、その言い分は、レバノンの首都ベイルートを攻撃した時と同じく、“テロリストの手に武器弾薬が移ることを事前に防いだ”ということですが、実際のところはどうでしょうか?
イスラエルを苦虫をかみ潰したような顔をしつつ支持し続けるアメリカ政府でさえ、「これはネタニエフ首相とその周辺の地域における勢力拡大欲の表れであり、非常に危険な兆候である」と警戒しており、これを機に戦火が一気に中東全域に広がりかねないと懸念を強めています。
ガザでの悲劇の激化や、ヒズボラへの攻撃、そしてイランへのミサイル攻撃など、いつ大戦争に発展してもおかしくないような事態が起きても、非難はしても静観を貫いてきたサウジアラビア王国やアラブ首長国連邦も、混乱極まるシリアに対するイスラエルの奇襲攻撃に対しては激怒しており、「これ以上、イスラエルが傍若無人に振舞い、アラブ諸国に挑戦状をたたきつけるのであれば、我々としてはアラブ全体の安全保障の確保のために対抗する必要があるだろう」と述べるなど、これまでにないほど緊張が高まっています。
しかし戦争が本当に勃発し、地域全体に広がり得るかと尋ねられたら、わからないと答えるしかないかと思います。
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