トランプ新政権の政策に握られている中東地域の命運
ちょっと前までは、私も戦争の連鎖で中東全体から地中海地域、そして中東欧にまで及ぶ戦争が広がるかもしれないと言っていましたが、イスラエルによる猛攻により、イランは現在、弱体化し、新政権もまだ立ち位置を決めかねていて、すぐには動けない状態になっていますし、ヒズボラの国といってもよかったレバノンも、肝心のヒズボラがイスラエルからの攻撃によってズタズタにされ、今、戦力としてはかなりダウンしていると思われますし、シリアもアサド政権が崩壊して、どちらかというと反イラン体制に傾いていると思われることから、発火点がなかなか見つからないという状況が広がっているように見えます(これだけ見れば、シリア・アサド政権の崩壊はポジティブなことに見えますが、実際にはどうでしょうか?)。
また、バランサーとしてのロシアの軍事力も、今、ウクライナとの戦争にかなり削がれており、ロシアが危機に対して即応できなかったことも、アサド政権が崩壊した一因とされていることからも分かるように、親イランの国々のバックアップも同様にできない状況であることから、中東地域の情勢は今、イスラエルの好き放題にされる状況と言えます。
ただ、そこにサウジアラビア王国を筆頭とするスンニ派諸国が連携してイスラエルと対峙するような事態になれば、確実に中東・アラビア半島は火の海になることと思いますが、それを引き起こしかねないのも、事前に止められるのも、悲しいかな、トランプ政権の対中東政策の方向性次第と言えます。
就任前の今は、例えばシリアについては、トランプ次期大統領自身、「アメリカはシリアに関わるべきではない」と繰り返し発言していますが、その“関わるべきではない”の意味するところが何なのかによっては、起こりうる状況は大きく変わります。
もしそれが「シリアの国づくりに関与しない」ということならまだ安心できるのですが、そうではなく「シリアで何が起ころうが、アメリカは介入しない」ということであれば、アメリカは中東地域を捨てる覚悟を示したことになり、中東地域における非常にデリケートなバランスを一気に崩しかねない事態に陥ります。
もし、前政権時以上に親イスラエルの姿勢を貫き、それが「イスラエルがシリアで何をしても、アメリカは介入しない」(というよりは支持する)という意味だったとしたら、ネタニエフ首相の暴走は加速され、イスラエルの圧倒的な軍事力がアラブを飲み込むような事態も想定しなくてはならなくなりますし、そのような場合には、サウジアラビア王国などは決して黙ってはいないでしょうから、必然的に大戦争に発展し、第5次中東戦争が勃発します。
そうなると、中東の資源に依存する国々は、エネルギー危機に見舞われ、世界経済および流通網に対しても大きな損害をもたらすことに繋がります。
トランプ次期政権がどこまで親イスラエルかは分かりませんが、政権中枢に親イスラエルと反ユダヤ主義の人物が混在している現状から見て、どのような外交・安全保障政策が示されるのか不透明と言わざるを得ず、それがまたいろいろな憶測を呼んで、さらなる悲劇を生み出していると思われます。
それゆえでしょうか。カタールではロシア、イラン、そして中国の外相級が“シリア・中東の今後”について協議していますし、サウジアラビア王国とイランの外相級が今後の対応について協議しているようですし、時期をずらしてアメリカのブリンケン国務長官などもカタールを訪れて、中東情勢についての協議を行っているようです(余談ですが、ガザ問題の仲介を一旦停止して、一息つこうとしていたカタール政府の高官によると、「光栄なことだけど、カタールも一息つく暇もなくて大変だ」とのことでした)。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ









