全世界を驚かせたリシアのアサド政権の崩壊に、開戦から3年を迎えようというウクライナ戦争。混乱が続く国際社会ですが、来年1月のトランプ氏再登板がそれらの見立てをさらに難しいものにしているのが現状です。識者は今後をどう読むのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、自身が属する「世界の安全保障コミュニティ」の声を紹介しつつ、中東、ウクライナ、さらに台湾を巡るごく近い将来の情勢を分析し予測しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:荒れ狂う国際情勢‐世界戦争に繋がりかねない同時多発的な紛争のドミノ
シリア復興とウクライナ戦争終結は実現するか。荒れ狂う国際情勢
シリアで反政府武装勢力が一気に首都ダマスカスを陥落させ、アサド大統領をロシアに亡命させ、長年続いたアサド家による独裁政治に終止符が打たれました。またアラブの春に連帯する反政府の動きを、残虐な手口で徹底的に弾圧し、結果、50万7,000人以上が殺害され、600万人以上が難民として国外に退避させ13年間続いた“シリア内戦”も終結しました。
これからアサド後のシリアをどうしていくのかに焦点が移るのですが、徹底的に破壊され、誰がどこにいるのかさえ分からない現状からの復興は、かなりのリソースと時間を必要とします。
欧米諸国やUNが次々と“アサドのいないシリア”へのコミットメントを表明していますが、それを主導する勢力が、かつて自分たちがテロリスト集団認定したHTSであることに、二の足を踏んでいるイメージがあります。
そのような中、解放を象徴付ける映像がCNNを通じて流されましたが、その際、女性のレポーターに抱き着き、久々に太陽の光を浴びたとアッラー(神)に感謝していた男性、そして「恐怖から解放されたのか、本当にまだ信じられない」と泣いていたその男性が、実は親アサド派でかつ情報工作員だったことが明らかになった際、シリアが今後、辿ることになるだろう苦難の日々はまだ続き、かつかなり厳しいものになると感じました。
彼のような親アサド派、つまりアサド政権の手先として働いていた人たちの扱いはどうするのか?
600万人超の難民の帰還をいかに進めるのか?それは安全に行うことが出来るのか?
HTSなどの反政府勢力の武装解除は本当に進むのか?
HTS(元アルカイダ系ヌスラ戦線)は本当にアルカイダ的な思想を捨てて、シリアに明るい未来をもたらす窓口となり得るのか?
確実に迅速かつ大規模な国際的な支援が必要となりますが、誰が音頭を取るのか?
いろいろと今後に向けて答えを出さなくてはならない問いが出てきます。
かつて2003年12月13日にイラクのフセイン大統領が拘束され、2006年に処刑された後のイラクにおいては、上記に挙げたような問いに明確な答えを出さないまま、米軍を中心とするイラク駐留軍が治安維持にあたり、アメリカの後押しで新政権が誕生しますが、元バース党・イラク軍士官などは悉く排除され、新政権のポストを巡って、これまでバース党支配下で抑え込まれていた民族間の争いが激化し、結果、2024年現在でも政府らしい政府が出来ず、イラクは常に混乱後になっているという事例があります。
そして皆さん、ご存じの通り、その混乱に溢れたイラクは、ISの格好の繁殖地となり、その後、世界に恐怖を与えました。
イラクでの失敗をベースに分かることは、混乱に満ちた国の復興を担うには、基本的には現地のリーダー主導での体制樹立が大前提ですが、いきなり手放し、手渡すのではなく、国際的な統治のプロがまず国づくりを手伝い、時期を見て、hand-overする形式を取るのが望ましいと考えます。
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