バイデン政権の「対中政策」は本当に成功したのか?2024年の中国外交を振り返る

 

さらにドナルド・トランプが葬り去ったTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に代わる経済的な連携であるIPEF(インド太平洋経済枠組み)を立ち上げ、経済的な中国包囲網形成を試みた。

加盟国のGDPの和が世界の40%を占める14カ国が参加したとジョセフ・バイデンは胸を張ったが、これも要となるのはインドと東南アジアだった。

そのインドが今年の半ばから明らかに対中宥和へと傾いた意味は大きい。起点は4月から6月にかけてインド全土で行われた国民議会総選挙だった。

まずスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相が「中国との問題を解決する必要性」に言及。それに続いて、モディ首相も対中関係改善の意思を示したのだった。

背景にあるのは、中国との対立よりも関係を修復して経済関係を深めることのメリットをインドが認識したことにある。

中印の関係改善の動きは、昨年のイランとサウジアラビアの関係修復を中国が仲介したことに続く今年の外交のハイライトだ。

旧冷戦期を西側陣営、就中、アメリカの強い庇護下で過ごした日本人にはなかなかできない思考だが、世界の多くの国々、とくにグローバル・サウスの国々がアメリカに盲従することはない。アメリカの力は認めつつも、簡単に別の大国との関係を犠牲にするような選択はしない。

これは、逆の視点から言えばアメリカに追従し中国と対抗することにメリットがあれば、そうなった可能性があるということだ。

つまりインドの選択は、アメリカとの関係強化と中国の対立のデメリットを天秤にかけて導き出された結論でもあるのだ。

世界がバイデン(ハリス)かトランプかで揺れるなか、最終的に中国との安定的な関係に舵を切ったということだ。

先述したIPEFではインド以上にASEAN(東南アジア諸国連合)の取り込みがアメリカの課題とされたが、ASEANこそ長い月日を経て中国との対立のデメリットを学んできたのである。

ASEANの腰が重かったこともあり、IPEFは実態としてその機能を果たせていない。それどころか多くの調査で明らかなようにASEAN諸国内での中国への好感度は上昇を続けている。イメージ改善の大きな推進力となったのが「一帯一路」だと聞けば、日本人の多くは驚くはずだ。

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