純粋に「国内で培養された人材だけ」で開発。中国製AI「DeepSeek」は何を証明したのか?

 

「DeepSeek」開発の“どのポイント”を本当に警戒すべきか

しかし、米『ブルームバーグ』が、記事「エヌビディア時価総額、米史上最大の5890億ドル減‐DeepSeekショック」(2025年1月27日)で報じたように、「DeepSeek」は、バイデン政権が築いた壁の外側で高いパフォーマンスを実現してしまったのだ。

同記事は、エヌビディアの株価が暴落した理由を、ジェフリーズのアナリストの顧客向けリポートの引用から「高性能の半導体と膨大な計算能力、それに伴うエネルギーに依存する現在のAIビジネスモデルの波乱要因となる可能性があるという懸念がたちどころに浮上した」ためだと説明している。

高性能半導体を輸出規制することによって中国の華為技術(ファーウェイ)をスマートフォン製造から排除しようとした試みを思い出させる展開だ。

ファーウェイは独自技術で最先端半導体を使わず復活してしまったのは記憶に新しい。

最先端半導体から排除されてもアメリカに匹敵するAIを開発でき、高性能のスマートフォンも製造できるのであれば、中国はアメリカの制裁から解放される。

同時に中国には、本命の半導体技術そのものでアメリカにキャッチアップする時間的な余裕も手に入れられるのだ。

これは決して小さな一歩ではない。

だが、本当に警戒すべきはこの点ではない。

以下、「DeepSeek」の創業者・梁文鋒のインタビュー(『36Krジャパン』掲載)から注目の発言を取り出したので読んでほしい。

梁は「ディープシークは『桁外れの天才技術者たち』を雇っているとの声もあります」との質問に対し、こう答えている。

「桁外れの天才技術者というわけではない。メンバーは中国国内のトップ大学(編集部注:北京大学・清華大学が多い)の新卒生のほか、博士後期課程の院生や卒業して間もない若者ばかりだ」

つまりアメリカを筆頭に西側先進国の名門大学で学んだメンバーではなく、純粋に中国国内で培養された人材だけで開発したと語っているのだ。「DeepSeek」が証明したのは中国で教育を受けた人材の質の高さだ。

ここ数年、日本が中国を批判する材料の一つに「若者が失業して苦しんでいる」というのがある。若年層の高い失業率に加えて、中国がこの数字の公表を一時的に止めたことでカサにかかって批判を続けてきた。

しかし私は、この問題の裏には、中国人の所得の上昇にともなう高学歴化があると指摘し続けてきた。簡単に言えば大量の大卒を生み出したことで、大卒に見合う仕事がないというミスマッチだ――(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年2月2日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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