危険なギャンブルでしかない「強力なお土産」もない中での会談
そんな中で、日本の石破茂総理がワシントンDCに来る形で、日米首脳会談がセットされました。ここまで申し上げてきたように、タイミングは最悪です。トランプ氏は忙しいし、やっていることは朝令暮改でしかも一つ一つの振幅は猛烈な激しさです。振幅の激しさというのは、前政権からの変更という意味でも、またアメリカの常識からの逸脱という意味でも、また一旦宣言したことを撤回する際の振れ幅ということでもそうです。
要するに、大混乱状態ということです。以前から申し上げていたのですが、特に大きな課題もない中では焦って会っても石破氏としては墓穴を掘るだけという考え方は十分に成り立ちます。特に、今週のように政権内部も周囲のリアクションも大荒れという中で、石破氏が会うのは危険極まりないとも言えます。
けれども、石破氏としては、トランプ氏に会わないという選択はないようです。何故ならば、日本国内には何とも言えない雰囲気があるからです。それは、
「トランプ当選以来、石破氏はできるだけ早く会おうとしたようだ。でも、現実には会うことができていない。これは心配だ。安倍晋三氏などは当選直後に非公式にあって、関係を築いた。石破氏はそれができていない。ただでさえ、通商や防衛問題で無茶な要求をしてきそうなトランプ氏に、日本の総理が会えないというのは、心配だ。この心配に自分たちは耐えられない」
という雰囲気です。このまま会えないのなら、石破氏をクビにして他の総理に代えたい、そのように世論が暴走する危険もないわけではありません。一方で、どうやら石破氏は、「驚いたことに」参院選以降の政権維持に希望を捨てていないようです。勿論、総裁選に勝って総理になったのですから、責任を果たすという意味で当然ではありますが、実現性のパーセントを考えると、実は当然とも言えない感じもします。
それはともかく、石破氏としては「会わない」という選択はなかったのに違いありません。石破氏としては、仮にギャンブルに成功して、トランプ氏とまあまあの関係を築ければ、自分の政治生命が延びると思っているのでしょう。更に、石破氏はトランプ氏を日本に招待するようですが、これは姑息とも言えます。仮に年内のトランプ訪日が約束してもらえたら、彼が来るまでは「会談の相手が変わる」と良くない、ということになって、政権の座に居座ることが可能になるからです。
その辺の政治的な事情については、残念ですがメカニズムとしてそうなっているので、とにかく「会わない選択はない」という判断になったのだと思います。改めて申しますが、タイミングは最悪です。そして具体的な課題も、あるいは強力な「お土産」もない中での会談はリスクが無限大の一方で、ベネフィット(成果の期待)は限定的という、やってはいけないギャンブルになっています。
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