紆余曲折の末、ようやく2月7日にワシントンで開かれることが決まった日米首脳会談。石破首相としては「念願」のトランプ氏との直接対談となりますが、その行く末を危惧する声が多数上がっているのも事実です。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉さんが、このタイミングでの日米首脳会談を「やってはいけないギャンブル」としてそう判断せざるを得ない背景を解説。さらに首相がトランプ大統領に破滅的な追い込みをかけられないため、会談の席で示すべき「2つの提案」の内容を具体的に記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:トランプとの会談、石破氏は自滅を避けられるか?
危険極まりない真剣勝負。石破首相はトランプとの会談で自滅を避けられるか
トランプ新政権が発足してまだ2週間ですが、ほとんど「日替わりメニュー」というペースで、大統領令などによる政策変更が進められています。私の住むニュージャージーのすぐ隣、ニューヨーク市内でも不法移民の摘発が始まっています。就任したばかりのノーム国土保安長官が、早朝に訓示して摘発をスタートさせるという「劇場(激情)型」パフォーマンスが非常にガサガサした感じでしたが、混乱はありませんでした。
ニューヨークの場合、当初は凶悪犯や累犯者の拘束が中心であり、最悪の事態は免れている感じです。つまり「不法入国は犯罪」だという論理から全米で1,200万という不法移民を軒並み摘発するという事態にはなっていません。またアダムス市長が苦渋の選択として受け入れた、テキサス等からの合法難民申請者に手を付ける、つまり難民認定の全面拒否や即時国外退去という乱暴な動きも現時点では起きてはいません。
更にトランプ政権は、一日約1,200人のペースで摘発を行い、それを加速させるとか、強制送還先が拒否したら、グアンタナモ湾の軍事基地にある収容所に入れる、しかもキャパ数千人の収容所に3万人を詰め込むなどと言っていました。ところが、現時点では現行法では強制送還の対象にならない不法移民の場合は、国境を越えさせないでアメリカ国内で釈放している例もあるそうです。
色々な政策の実施がされてはいますが、多くの場合は朝令暮改があったり、不徹底があるようで、そのような混乱だけが拡大している、そんな感じがあります。
ところで、1月20日の就任演説は強硬なトランプ節に満ちていましたが、それでもNATOを瓦解させかねないカナダやグリーンランドの併合という「無理筋」は盛り込まれませんでした。また、1月27日にウォール街を揺さぶった中国のAIベンチャー「ディープシーク」の衝撃に対しても、即座に反中攻勢をかけるのではなく、トランプ大統領はアメリカに技術的な奮起を促すようなコメントを出しています。つまり「当面の敗北」を認めた格好であり、そこには冷静さも見て取れるようにも思われました。
ただ、その後、ディープシークに関しては、今度は習近平政権のほうが英雄視をして政治利用を始めています。また、依然として「高性能なGPUの違法な輸入」をして開発がされているとか、「ChatGPTなど米国内のデータをコピーしている」などの疑惑が出ています。経済戦争、あるいは諜報戦争の対象になる可能性は否定できません。ですが、27日の株の動揺、いわゆる「ディープシーク・ショック」に関しては、アメリカが素直に敗北を認めたことで28日には株価が沈静化しました。
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