タイミングは最悪。石破首相が焦ってトランプと会っても「墓穴を掘るだけ」に終わりそうな理由

 

適切とは思えぬ会談直前の「ガザ難民受け入れ」発信

その一方で、石破総理は「シリアの例を参考に」パレスチナ難民を医療と教育の分野で受け入れるという発言をしました。この点に関しては、このトランプ氏と会うタイミングとしては良い考えだとは思えません。5つ懸念材料があります。

1つは、日本政府は国是としてイスラエル=パレスチナの2国家体制を支援してきました。仮に今回の行動が、アメリカの2国家体制の否定、つまりパレスチナによるガザ放棄、西岸へのイスラエルの領有権の承認という流れを間接的に認めるような理解をされては大変です。そのような理解をされますと、アラブ世界全体を敵に回す危険があります。やる場合は、ファタハのパレスチナ政府と良く相談して進めるべきです。

2つ目は、パレスチナ難民の受け入れは、例えばエジプトもヨルダンも難色を示しています。それは、様々な負担感があるからです。では、この両国などの世論は日本によるパレスチナ難民の受け入れを評価するかというと、それは違うと思います。それは2国家体制を否定するだけでなく、またエジプトとヨルダン等のメンツを汚すだけではありません。こうした点に加えて、アラビア語を話しパレスチナというイスラム教の聖地を守ってきた民を、理解不能な極東の異教の国に送るのは賛同できないという肌感覚を伴うからです。

3つ目は、イスラエルに取っては半世紀前に日本発の凶悪な日本赤軍というテロ集団に攻撃されて多くの犠牲者を出した記憶は消えていません。そんな中で、日本がパレスチナ難民を受け入れるというのは、冷静に考えれば無害かもしれませんが、万が一ということを考えてしまう危険があります。ギャバード氏のように「目の曇った」人物の場合、アメリカからも同様の懸念が出て、「心にもないことを指摘される屈辱」から日本の世論を刺激する危険性もあると思います。

4つ目は、人口減に苦しむ日本としては、移民の受け入れは避けて通れない課題ですし、イスラム教徒に期待するのは事実です。ですが、まだ成功しているとは言えません。順番としては、インドネシア、マレーシア、そしてバングラ、パキスタンの人々をまず本気で受け入れるのが先です。アラブの人は、その後という順序にしないと、お互いが不幸になる危険があると思います。

5つ目は、アメリカの反応です。これまでのアメリカ政府の外圧は、「自分たちは精一杯の努力をして、難民を受け入れてきた」のだから、日本も受け入れを考えろというものでした。それは外圧ではあっても、日本には難しさがあるという理解を伴ってはいたのです。ですが、トランプ政権は違います。自分たちは人道活動など偽善だから全部カットする、その代わりは外国に押し付ける、という姿勢だからです。

日本では、リベラルを叩いたり、ポリコレを壊したりするトランプ氏を勝手に支持するグループがあるようですが、間違ってはならないのは彼らのイデオロギーは「アメリカ・ファースト」だということです。「自国ファースト」という万国共通のイデオロギーではないのです。ですから、日本として「スキを見せる」ということは、無限に「つけ込まれる」ということを覚悟しなくてはなりません。

シリア危機の際に、日本は教育目的でのシリア難民の受け入れをしたのは事実です。ですが、現在はその時と比べるとアメリカは「全く別の国」になっています。まして、トランプ氏との一対一会談というのは、危険極まりない真剣勝負になります。この「ガザ難民受け入れ」を会談直前に持ち出すというのは、適切とは思えません。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2025年2月4日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週の論点「モリタク氏遺言の誤り」「シジミの味噌汁問題を考える」もすぐ読めます

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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