タイミングは最悪。石破首相が焦ってトランプと会っても「墓穴を掘るだけ」に終わりそうな理由

 

「無難な現状維持」の「懇願」なら破滅に追い込まれる石破首相

そうではあるのですが、とにかく会談はセットされてしまいました。では、会って何を話すかですが、相互の事務方の折衝は既に動いており「日米同盟を強化する」という方向で作業が進んでいるという話です。問題は相手方が誰かということで、クビになりつつある国務省のチャンネルではむしろマイナスです。最低限この新政権のホワイトハウス側の責任ある人、もしくは、ルビオ新体制で入ってきて権力が確立している国務省の人でなくてはダメです。

日本の官邸の思惑は、何となくわかります。別に何か問題を持ち出して「事を荒立てる」必要はないという感じかもしれません。また米国では多くの他のニュースに埋もれても構わないということもあると思います。日本向けに「石破氏がトランプ氏と会って、日米関係は安泰だ」という報道が流れ、「年内にトランプ氏が来日する」ということになれば石破氏としては成功という計算になると思います。

けれども、こうした姿勢はかなり危険であると考えなくてはなりません。何よりもトランプ氏とその支持層というのは、「無難」とか「現状維持」を嫌うからです。特にトランプ氏は塀の中かホワイトハウスかというギリギリの綱渡りをしてきた筋金入りです。カジノ事業を買収承継した過程では、相当な反社との丁々発止の交渉もしてきたのだと思います。

ですから、かなりハードな相手と考えるべきです。その上で、表情の見えない日本人の態度には80年代以来反感を持っている危険もあります。日米自動車摩擦の記憶、カジノに来てもケチだし、札びら切っているくせに不動産取引では値切る嫌な客というイメージも記憶しているかもしれません。何よりも「何かにつけて持ち帰って検討する」という日本人の行動パターンを、内心から馬鹿にし切っているかもしれません。

ですから、仮に今回「無難な共同声明」に付き合ってくれたとして、心の奥には「ちゃぶ台返し」への誘惑の種を抱える可能性もあるわけです。亡くなった安倍晋三氏がどうしてトランプ氏と波長が合ったのかというと、インテリ「でない」匂いやリベラル派を敵に回しているという共通点だけではなかったと思われます。安倍氏が日本の国益という意味では一歩も譲らなかった中で、丁々発止の対決もあったのでしょう。

そこでは明らかに安倍氏には「自分」があり、交渉相手としての手応えを通じて相互にリスペクトを感じたのではないか、そんな可能性を強く感じます。トランプ氏とはそのような人物だからです。ですから反対に、最初から「無難な現状維持」を「懇願」するような姿勢が透けて見えれば、それこそ破滅するまで追い込まれる危険もあると思います。

その意味で、石破氏が仮に「無難な共同声明」と「来日の約束」を求めて、それこそ卑屈に懇願するようではダメです。外でもないドナルド・トランプという人物と渡り合うには危険極まりないからです。

そうではなくて、日本という国家の威信を示すこと、これが最低条件です。折角だから主張しよう、ではなくて、ちゃんと主張しないと「一人前」とは見られずに、ボコボコにされるからです。では、どうやって国家の威信を示すのか、それは同時に今後の日米関係に懸念を残さないことに直結しなくてはなりません。

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