MAG2 NEWS MENU

中居正広フジテレビ問題で浮き彫りに。タレント依存のCM業界が抱える“一瞬でブランドイメージ大崩壊”リスク

元スマップの中居正広氏を巡る騒動で、スポンサー企業が続々とフジテレビでのCM放送を差し止めし、その穴を埋めるためACジャパンの公共広告が流され続けていることが話題となっています。そんなACジャパンを取り上げているのは、ジャーナリストの伊東森さん。伊東さんは自身のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』で今回、ACジャパンの歴史や活動内容について解説するとともに、日本の広告業界が直面する「タレント依存のリスク」について考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:日本のCM市場に激震を与えた中居・フジテレビ問題が浮き彫りにする広告業界の盲点 ACジャパンの役割と課題 海外との比較  テレビCMの未来 リアルタイム取引が変える広告戦略

中居フジ問題でも露呈。「タレント依存型のCM戦略」の大きなリスク

1月にフジテレビで発生したCM差し止め問題は、メディアと広告主の関係における根本的な課題を浮き彫りにする可能性がある。

特に、ACジャパンは日本の公共広告の中核を担う組織として長年にわたり社会啓発活動を展開してきたが、CMの差し止めにより広告枠が空いた場合の調整プロセスには課題が残る。広告枠の確保や調整の仕組みが十分に整備されていないため、スムーズな放送切り替えが困難だった可能性がある。

一方、米国のアド・カウンシル(Ad Council)は1942年の設立以来、国家危機管理と連携した広告戦略を展開してきた。この組織は、第二次世界大戦中に政府の広報活動を支援する目的で創設され、以降、社会的課題への対応や危機時のメッセージ発信において中心的な役割を担っている。

たとえば2001年の9.11同時多発テロ発生時には、発生から72時間以内に国民統合を促すメッセージ広告(「I Am an American」)を制作し、迅速に配信した。しかし、日本ではACジャパンと民放局の間で、災害時以外の緊急対応プロトコルが公式に整備されているとは言えず、危機発生時の迅速な広告対応には課題がある。

▽ACジャパンとは?

  • 公益社団法人で、公共広告を通じて社会問題の啓発や公共の福祉促進に取り組む団体
  • 1971年に関西公共広告機構として大阪で設立
  • 2009年に現在の名称「ACジャパン」に変更、2011年に公益社団法人化
  • 約1,000社の会員企業と個人会員からの会費で運営され、税金は使用していない
  • テレビCM、ラジオ、新聞広告などを通じて、環境問題、公共マナー、いじめ問題などの社会課題に関するメッセージを発信
  • 毎年20種類以上の広告を制作し、全国キャンペーン、地域キャンペーン、支援キャンペーンなどを展開
  • 災害時や非常時に一般企業のCMが自粛される際に、ACジャパンのCMが頻繁に放送される
  • 「ACジャパンCM学生賞」を開催し、若い世代の社会参加を促進
  • 設立から50年以上が経過、800を超える公共広告キャンペーンを展開してきた

記事のポイント

  • フジテレビのCM差し止め問題は、メディアと広告主の関係における根本的な課題を浮き彫りにした。
  • 日本のようなタレント依存型のCM戦略はリスクが高まり、タレントのスキャンダルが広告業界に与える影響が大きいが、欧米では商品やブランドメッセージに重点を置く傾向がある。
  • 日本テレビでは「ARMプラットフォーム」が導入され、リアルタイム広告配信が可能になり、広告業界でもデジタル化が進行。

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

フジテレビ単独のCM差し替えという「前代未聞」

ACジャパンは、日本の公共広告の歴史において重要な役割を果たしてきた。

昭和天皇崩御時の1989年1月7日には、公共広告機構(現ACジャパン)のCMが多く放送された。崩御後、民放各局は特別報道体制に入り、CMの放送を自粛。その後、テレビ局やスポンサーの判断により、通常のCMがACジャパンの広告に差し替えられた。

また、東日本大震災時の2011年3月11日以降も、ACジャパンのCMは同様の役割を果たした。震災直後から3月19日までの間に放送されたACジャパンのCMは19,972本に上り、これはトヨタ自動車の年間CM放送本数(約2万本)に匹敵する規模だった。

一方、米国のアド・カウンシル(Ad Council)は1942年の設立以来、国家危機管理と密接に連携した広告戦略を展開してきた。

特に2001年の9.11同時多発テロ発生時には、発生から72時間以内に「I Am an American」という国民統合を促すメッセージ広告を制作し、全米で放送された。

しかし、日本では、災害時以外の緊急対応プロトコルがACジャパンと民放局の間で公式に確立されているとは言えない。東日本大震災時にACジャパンのCMが大量に放送されたのも、事前のプロトコルに基づいたものではなく、民放局の広告枠調整による対応だった。

そういう意味で、テレビ局の不祥事というフジテレビ単独のCM差し替えという点では、まさに前代未聞の出来事だった。

▽米アド・カウンシル(Ad Council)

  • 1942年に設立された非営利組織で、公共サービス広告(PSA)の制作・配布・宣伝を行う
  • 設立の背景には第二次世界大戦があり、当時の大統領フランクリン・ルーズベルトの要請で誕生
  • 広告代理店と提携し、プロボノで社会問題に関する広告キャンペーンを制作している
  • 33,000以上のメディア機関とネットワークを持ち、寄付された時間と場所で広告を配信している
  • 年間約18億ドル相当の広告枠の寄付を受けており、米国最大級の広告主の一つに相当する
  • 社会問題への一般市民の関心を高め、特定の問題に対する市民の態度を変えることを目的としている
  • キャンペーン後には必ずROI(投資収益率)調査を行い、効果を測定している
  • 「Smokey Bear」(森林火災防止)や「Friends Don’t Let Friends Drive Drunk」(飲酒運転防止)など、多くの有名キャンペーンを展開してきた
  • 2020年にはCOVID-19パンデミックに関する啓発活動を行い、2021年にはワクチン教育イニシアチブを開始した
  • 非宗派的、非党派的な問題で、全国的な関連性があり、コミュニケーションが測定可能な変化をもたらす問題に焦点を当てている

著名タレントを起用しないCMも多い欧米で広がる認識

今回の騒動を受け、中居が契約していたソフトバンクに加え、年明けには泥酔問題を起こした吉沢亮のCMも差し替えられた。

日本の広告業界では、タレントを前面に押し出したCMが主流だが、この手法には多くの課題がある。タレントの知名度や人気を活用することで短期的な効果は得られるものの、キャスティング費用が高額になりやすいというリスクがある。

また、タレントがスキャンダルや不祥事を起こせば、企業のブランドイメージにも深刻な影響を与えかねない。近年、ソーシャルメディアの発達により、タレントの言動や私生活が瞬時に拡散されるリスクも高まっている。

さらに、タレントのイメージに依存しすぎると、商品の特徴や価値が十分に消費者へ伝わらないことも多い。

一方、海外、特に欧米の広告業界では、日本とは異なるアプローチが取られている。欧米では、著名なタレントを起用しないCMも多く、商品やブランドメッセージ、キャラクターに焦点を当てた表現が主流である。

これは、ブランドの世界観や商品の特性を長期的かつ一貫して伝えることを重視しているためだ。また、欧米の消費者はメディアリテラシーが比較的高く、タレントの起用だけでは商品の魅力を十分に伝えられないという認識も広まっている。

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

日テレが開発中の「リアルタイム広告」が変えるCMの常識

日本のテレビ広告業界は、デジタル技術の進化に伴い、大きな転換期を迎えている。その最前線にあるのが、日本テレビが開発中の「ARMプラットフォーム」だ。このシステムは、地上波テレビ広告にリアルタイム取引(プログラマティック取引)を導入し、放送直前まで広告素材を決定できる革新的な仕組みである。

さらに、数理最適化技術を活用して広告枠と契約の紐付けを自動化し、より効率的な広告配置を実現する点も注目に値する。従来の視聴率に加え、広告が視聴された回数(インプレッション)を指標として採用することで、地上波とインターネット広告の統合運用が可能になる(*1)

従来のテレビCMは、広告素材の変更や運用の柔軟性に限界があった。しかし、ARMプラットフォームでは、放送の数秒前まで広告を即時に差し替えることができるため、天候や視聴率の変動、社会情勢に応じて最適な広告を瞬時に配信できる。

このようなリアルタイム広告の流れは、海外でも加速している。特に米国では、NBCユニバーサルなどの大手メディア企業が「プログラマティックテレビ」を導入しており、これはシステムを介して広告枠を売買する仕組みで、テレビの広告分野でも活用されている。AIを活用して視聴者の属性や視聴履歴に基づくターゲティングを強化している。

▽日本テレビの「AdRM-Exchange」の主な特徴と影響

  • 地上波広告
  • 2025年4月からのサービス開始を予定
  • 従来のGRP取引からインプレッションベースの取引へ移行
  • 放送直前(最短3秒前)まで広告素材の決定が可能
  • RTB(リアルタイム入札)を受け付ける
  • 性別、年代を指定した入札が可能
  • テレビ広告の運用性向上やクロスメディア戦略の促進を期待
  • 広告主にとってより柔軟で効率的なキャンペーン設計が可能に
  • 地上波とデジタル広告の統合的な運用を実現
  • 広告効果の最適化や透明性の向上を目指す

【関連】フジ中居問題の根本原因か。権力集中による人権侵害と意思決定の不透明性を温存するテレビ局の大問題
【関連】【精神科医・和田秀樹】フジテレビ復活の鍵は「高齢者向け番組」老害排除と真逆の老人優遇がTV業界を救う理由
【関連】辛口評論家「中居正広フジテレビ問題は日枝久路線の“必然の終着点”だ」
【関連】中居正広「フジ女子アナ献上疑惑」で浮き彫りに。日本のアナウンサー文化が抱える構造的な課題
【関連】週刊文春“記事訂正”の罠にハマる中居正広とフジテレビの罪。日枝久の退陣は必然、やりなおし会見で露見した異常性

引用・参考文献

(*1)「地上波広告におけるリアルタイムなプログラマティック取引を実現 『ARMプラットフォーム』を2024年度末にリリース予定 『視聴率』に加えて『インプレッション』の指標化を検討」日テレホールディングス 2023年11月27日

(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2025年2月16日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

この記事の著者・伊東森さんのメルマガ

初月無料で読む

image by: cowardlion / Shutterstock.com

伊東 森この著者の記事一覧

伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版) 』

【著者】 伊東 森 【月額】 ¥1100/月(税込) 初月無料 【発行周期】 第2、第4日曜日発行

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け