フジテレビと親会社のフジ・メディア・ホールディングスの取締役相談役を兼務し、「フジテレビの首領(ドン)」と呼ばれる日枝久氏。中居正広の女性トラブル問題でフジテレビによる10時間にも及ぶ異例の会見にも姿を見せず、報道陣たちからは批判が相次いでいました。その日枝氏について、メルマガ『佐高信の筆刀両断』の著者で辛口評論家として知られる佐高さんがその「傲慢」ぶりを語っています。
張本人は日枝久
読売のドンの渡辺恒雄のマネをフジテレビの日枝久がし、さらにテレビ朝日の早河洋がそれに倣って専制権力を発揮する。
とりわけ日枝は安倍晋三の一族をコネ入社させて政治権力と近づいた。
安倍の甥の岸信千世、安倍の母親のお仲間の娘婿、加藤勝信の娘などが入っている。中曾根康弘の孫もいた。
現在、父親の後を継いで自民党の衆議院議員となっている信千世が選挙の時に家系図を披露して笑いものになったが、本人はなぜ笑われるかわからなかっただろう。
日枝ワンマン体制の下、信千世的感覚がまんえんしていった。中居正広と信千世はまさに日枝が生んだ鬼っ子と言っていい。
何年も前に中川一徳の『フジテレビ凋落の全内幕』(宝島社)が出たが、そこに次のような「関係者」の声が載っている。
「結局、日枝(前)会長が永く居座り続けているのが元凶ですよ。トップが頻繁に変わる普通の上場企業ならば、特定の役員と仲がよくても翌年にはその人がいなくなっているかもしれませんし、コネを築くことはさほど意味を持ちません。しかし、フジのような、トップが28年も変わらない会社の場合、日枝さんと良好な関係さえ築いている人なら、息子でも娘でも甥でも姪でも、好きなだけ潜り込ませることができてしまうんです」
日枝が熱心に“永田町詣で”をしたのはお台場にカジノを誘致したかったからだとも言われた。フジの現社長の港某はまったくのカイライであり、老害のボスの日枝に会見させなければダメなのである。
フジの入社式は以前から新入社員たちの親が「参観」することで有名だが、これは入社式が新入社員のためというよりは有力者である親たちに向けたお披露目会になっているかららしい。
新刊の拙著『70人への鎮魂歌』(平凡社新書)で私はフジサンケイグループ代表だった羽佐間重影を取り上げた。
オーナー然としてワンマン経営をした鹿内信隆が亡くなって後を継いだ娘婿の宏明に対するクーデターが1992年に起こった。表向き反乱の主役は羽佐間だったが黒幕は日枝だった。人のいい羽佐間は日枝の盾にされたのである。
前掲書にこんな1節がある。
「目の上のタンコブだったニッポン放送を完全支配(子会社化)したことで、日枝を脅かす存在はグループ内からなくなった。唯一、産経新聞社長の住田良能が抵抗の動きを示したりしたが、2008年に多発性骨髄腫にかかり、5年後に死去したことで潰えた」
住田と私はほぼ同年で慶応の同窓という縁もあり、親しかった。だから、住田生存中は私も『夕刊フジ』に西郷隆盛や福沢諭吉、そして原敬の評伝を連載したりした。
安倍をはじめとする権力べったりの日枝支配は『産経』および『夕刊フジ』には完全には及んでいなかった。今回の中居問題は日枝路線がたどりついた必然の終着駅である。
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