フジ中居問題の根本原因か。権力集中による人権侵害と意思決定の不透明性を温存するテレビ局の大問題

Tokyo,,Japan,-,December,22,,2015:,The,Plaza,Below,Fuji
 

ネットメディアやSNSの台頭により以前ほどの絶対性は薄まったとはいえ、未だ小さくない権力と影響力を保ち続けるテレビ放送局。そんなキー局の一つで起きた元スマップの中居正広氏を巡る騒動は、「日本のメディア業界が抱える構造的な課題を浮き彫りにした」とジャーナリストの伊東森さんは指摘します。ではその「構造的な課題」とは一体何を指すのでしょうか。今回のメルマガ『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』で伊東さんが、「放送と制作の分離」という面にフォーカスし解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:フジ・中居問題を引き起した日本のテレビ局の根本原因 放送(編成)と制作(コンテンツ開発)の分離がなされず、権力の集中を招き人権侵害が起こる そしてそれはテレビ局の非公共性をおもあぶり出す

あぶり出されたテレビ局の非公共性。フジ中居問題を引き起こした根本的原因とは

フジテレビと中居正広に関する問題は、日本のメディア業界が抱える構造的な課題を浮き彫りにした。その中でも特に、テレビ局における放送(編成)と制作(コンテンツ開発)の分離が徹底されていない現状が、再び注目されている。

2010年の放送法改正では、放送局のハード(送信設備)とソフト(番組制作)部門の分離が基本理念として定められた(*1)。しかし、現実には改革は十分に進んでいない。このような状況下では、放送局内部での権力の集中や意思決定の不透明性が温存される。

他方、イギリスでは「出版型放送」と呼ばれるモデルが導入されている(*2)。このモデルは、基本的に放送局は番組制作を外部の独立プロダクションに委託し、自社は編成や放送業務に専念するというもの。

一方で、日本において制作と放送の分離が進まなかったことは、単なる業界の構造的課題にとどまらず、テレビ局の公共性や多様性をも脅かす要因となっている。

世界には、「パブリック・アクセスチャンネル」と呼ばれる、一般市民が自由に番組を制作し放送できる非商業的なチャンネルが存在する。この制度は、メディアの民主化や表現の多様性を促進するために設けられた、市民参加型の重要なメディアプラットフォームだ。このような取り組みも日本では皆無だ。

2010年11月26日に成立した放送法改正

  • ハード・ソフト分離の導入
    従来のハード・ソフト一致の原則から、ハード・ソフト分離の選択肢が追加
    放送事業者は、ハード(設備)とソフト(番組制作・編集)を一致させるか分離するかを選択できるようになる
  • 基幹放送の区分
    放送は「基幹放送」と「一般放送」に区分
    基幹放送には地上テレビ放送や衛星放送が含まれる
  • 免許と認定の分離
    基幹放送について、無線局の「免許」(ハード)と放送業務の「認定」(ソフト)の手続きが分離。
  • ハード・ソフト分離の意義
    経営の柔軟性向上:事業者の選択肢を増やし、経営の自由度を高めることを目指す
    競争促進:放送設備の所有と番組制作の分離により、新規参入を促進し、競争を活性化させる狙いが
    技術革新への対応:デジタル化やインターネットの普及など、技術の進歩に対応するための制度整備
  • 注意点
    ただし、この改正には以下の点に注意が必要
    完全義務化ではない
    ハード・ソフト分離は選択肢として導入されたが、強制ではない
  • 地上波への影響
    特に地上波テレビ放送では、従来のハード・ソフト一致の形態を維持する選択肢も残された。

記事のポイント

  • 日本のテレビ業界は、放送(編成)と制作(コンテンツ開発)の分離が進んでおらず、垂直統合型モデルによる権力の集中が人権侵害や性加害、労働過多を引き起こすリスクを抱えている。
  • 一方で、イギリスやアメリカでは放送と制作の分離が進んでおり、Fin-Syn Ruleや出版型放送モデルによって、独立系制作会社の成長や番組の多様性が促進されてきた。
  • パブリックアクセスチャンネルは、市民が自由に情報を発信できる場を提供し、メディアの多様性と民主主義の基盤強化に寄与しているが、日本では同様の取り組みがほぼ存在しない。

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