MAG2 NEWS MENU

103万円の壁見直しは「年収200万円以下に限る」だと?解き放たれた公明党が「自民案にガチギレ」する本当の理由

国民民主党が求める「年収103万円の壁」見直しを、のらりくらりかわす自民党。「178万円」を目指すとした自公国3党合意を無視し「年収200万以下の人に限って160万円」というセコい案を出してきた。この誰得プランに、意外にも強く反発しているのが与党・公明党だ。私たち生活者には大変ありがたい話に思えるが、その背景にはどんな党内事情があるのか。元全国紙社会部記者の新 恭氏が詳しく解説する。(メルマガ『国家権力&メディア一刀両断』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:「103万円の壁」政策の実現を今国会ではかりたい公明党の思惑

国民民主党が絶対に飲めない「103万円の壁」自民案

自民税調の考えることはやっぱりおかしい。

国民民主党が政策実現を求めている「年収103万円の壁」の引き上げについて、「123万円」と低額回答したあと、2か月もの長い沈黙を続けていたのだが、ようやく出してきた2度目の提案もまた物価高にあえぐ国民を小馬鹿にするような内容だった。

2月18日に開かれた自民、公明、国民の税調会合。国民が「178万円」への引き上げを求めているのは変わらない。

それに対し自民税調が「160万円」という数字を示したのには思わず「おっ」となったが、よく見ると所得が200万円以下の人に限るという厳しい条件つき。

さらに、200万円を超え500万円以下の場合は2年間に限り133万とか面倒くさいことを言う。「なんだこれ」というのが大方の感想だろう。

基礎控除に所得制限を設けること自体、ありえない。そもそもこの政策の狙いの一つは、中間層の手取りを増やすことによる景気の好循環だが、これではほぼ低所得層限定の対策でしかない。

「財源はどうする」と税収が減る面ばかり見て、消費の活性化による税収増には目を向けない。だいいち、中間層もまた、今の物価高と重税感に苦しんでいるのだ。

あまりにも庶民感覚と乖離した提案を、国民民主党が受け入れるはずがない。いい加減な妥協をしようものなら、この政策を支持してきた人々から強烈なしっぺ返しを食らうだろう。こうなったらあくまで強気で通すしかない、との声も聞こえる。

今国会で話し合いが決裂し、予算案の修正がなされない場合、国民民主としては今夏の参議院選で有権者に訴え、さらなる支持拡大をねらうだけのことだ。

【関連】「ラスボス」は過大評価、宮澤自民税調会長の正体。実態は財務省配下の小ボス…103万円の壁バトルで敗北を悟り震えている

与党・公明党も、自民案のデタラメぶりに苛立ち

「103万円の壁」政策を今国会で実現すべく懸命になっているのは、むしろ与党・公明党といえるかもしれない。この交渉過程で、不思議な存在感を放っている。

2月14日朝、国民民主党の榛葉賀津也幹事長に公明党の西田実仁幹事長から電話があった。

「お昼過ぎに会えないだろうか。(年収103万円の壁についての)三党幹事長間の合意を守るために前進させたい」

もちろん、榛葉氏は快諾した。新年度予算案が年度内の3月末までに成立するには、遅くとも3月2日までに衆議院を通過する必要がある。予算案修正の事務的な都合上、2月20日前後が政策決定のギリギリのタイミングだ。

「生活者のために」だけではない公明党の党内ウラ事情

昨年12月11日に自民、公明、国民三党の幹事長は以下の内容で合意した。

いわゆる「103万円の壁」は、国民民主党の主張する178万円を目指して、来年から引き上げる。いわゆる「ガソリンの暫定税率」は、廃止する。

しかし、宮澤洋一氏を会長とする自民党税調はこれを無視。178万円にはるかに及ばない123万円を提示し、国民民主側の意向など頓着せず翌年度の与党税制改正大綱に盛り込んだ。

むろん国民民主党がこれをのむわけはなく、決着がつかないまま年を越えた。通常国会が始まっても、石破茂首相は「150万円程度への引き上げを検討」という一部報道を完全否定。与党側から新たな提案が出てくるかどうかも判然としない状況が続いた。

日本維新の会の主張する「高校授業料無償化」と国民民主の「103万円の壁」を両天秤にかけ、場合によっては、コストが安くて済む維新の政策を選択することによって政府・与党は当初予算案の衆議院通過をはかろうとしているのではないかという憶測もメディアで取りざたされていた。

18日、国民の榛葉幹事長と会談した後、公明の西田幹事長は記者たちを前に、こう語った。

「今日は何が決まったというほどではないが、103万円の壁を178万円に引き上げる、またガソリンの暫定税率を廃止するという二つの合意、とりわけ前者については交渉の進展が見られない。公明党としては、自民党にも声掛けを加速化して合意作りに動き出そうということで呼吸合わせをした」

公明党がこれから大急ぎで自民党への働きかけを強める“宣言”といえた。自民党の回答を待っていたのでは埒が明かない。公明党が動き出すチャンスだった。「150万円台」あたりなら決着する可能性があり、そうなると積極的に動いた公明党の手柄にできる。今夏の参議院選や東京都議選にもプラスになる。そんな計算が働いたはずだ。

国民の榛葉幹事長は「公明党さんは永田町や霞が関の論理ではなく、より生活者の実態に寄り添っている」と西田幹事長を持ち上げた。同志的意識のようなものが生まれていたのかもしれない。

だが、公明の動きには、党の事情が深くからんでいると見るのが自然だ。

石破自民を“折伏”できねば公明党は選挙で負ける

昨年の衆議院選で、公明党は公示前32議席から24議席に後退、比例区の総得票数も前回比114万9867票減の596万4415票に終わった。かつて衆院比例で900万近くもの票を獲得したことを考えると、支持母体「創価学会」の会員数減少と高齢化が進む公明党の退潮傾向は明らかだ。

公明党は党のウエブサイトで、「自民の『政治とカネ』逆風のあおりを受けた」「自公連立政権に国民の厳しい審判が下された」と衆議院選の結果を評した。

自民党べったりの姿勢を続けていては、先が危ない。そんな空気が公明党内に渦巻いている。

自民党との長期にわたる連立関係がもたらす弊害によって、「平和」「福祉」を尊ぶ党の独自性が薄れてきた。最強の選挙マシーンといわれる創価学会婦人部の不満は大きい。

そうした公明党の現状を反映したと見られるのが、朝日新聞の単独インタビュー(1月22日)に対する斉藤鉄夫代表の発言だ。

公明党の推進する選択的夫婦別姓の法制化について「実現しなければ、連立離脱もあり得るか」と問われたのに対し、斉藤氏はこう答えた。

「何があっても自公連立は崩しません、ということはない。我が党が譲れないもので意見が対立し、合意が得られなかった場合に連立離脱というのはあり得る。そういう緊張感をもって自民もやってくれていると思うし、我々も緊張感をもってやっている」

公明党を重視するように促す一種の脅しであるには違いない。選挙協力を通じて互いに依存関係を深めてきた自公両党。その“腐れ縁”は簡単に解消できるものではないだろう。

だが今、自公連立という枠内に埋没してしまっては、公明党の存在感はさらに低下し、今後の選挙に響いてくるに違いない。政策実現で存在感をアピールしたいという切羽詰まった思いが斉藤氏の発言ににじんでいた。

自民・公明・国民民主の三党はどのような結論を出すのか?

衆議院選が終わってから、公明党は国民民主党との距離を急速に縮めてきた。国民民主の人気にあやかるという側面もあっただろう。そしてなにより、「年収103万円の壁」引き上げは、国民生活に直結する政策で成果を上げたい公明党にとってうってつけの政策だった。

西田幹事長は「自民の森山裕幹事長には私の方から働きかけていく」と、あくまで幹事長間合意を重視する姿勢を示し、事実、強い働きかけを行ったようだ。

自民の森山幹事長としても、三党幹事長の合意を忘れたわけではない。「インナー」と呼ばれ、それなりに権勢を誇ってきた党税調が「123万円」の回答しか出してこなかったのを、幹事長の立場として軽視することはできなかったはずだ。さりとて、この政策を掲げて衆院選を戦い、議席を4倍にも増やした国民民主への対応を誤ると、石破政権の命取りになりかねない。

昨年12月20日に決定された与党税制改正大綱には、相矛盾する二つの文言が盛り込まれていた。「年収103万円の壁」を123万円に引き上げるとしながらも、「178万円を目指して来年から引き上げる」「自民・公明両党として、引き続き真摯に協議を行っていく」と三党幹事長間の合意内容も記載された。

税調の出した結論に縛られないですむ文言を大綱に書き加え、政治決断で引き上げ額を決める余地を残しておいたということだ。その点に期待したのだろう。公明の斉藤代表は18日、「自民党案では不十分だ」と石破首相に“直訴”している。

「年収103万円の壁」政策は実質所得の目減りに対処する必要不可欠な税制の見直しであり、所得制限などあるべきではない。自民党税調の提案を受けて、公明党は所得制限の額を200万円ではなく1000万円とする案を軸に三党間の調整をしているようだが、所得制限を設けること自体、国民民主としては受け入れがたいのではないか。

いずれにせよ、税調ベースの交渉ではどうにもならないことは、はっきりしている。あとは幹事長、あるいは党首レベルでどう決着をはかるかだ。

【関連】石破、空気読め。八潮市道路陥没で日本に広がる“明日は我が身”感…道を歩けず風呂も入れずに何が「楽しい日本」か?

この記事の著者・新 恭さんを応援しよう

メルマガ購読で活動を支援する

image by: 自民党 – YouTube | 玉木雄一郎オフィシャルサイト

新恭(あらたきょう)この著者の記事一覧

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 国家権力&メディア一刀両断 』

【著者】 新恭(あらたきょう) 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 木曜日(祝祭日・年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け