訴訟事例は未確認。「女性へのAED使用で強制わいせつに」というデマは誰が発信したのか?

 

JALとANAが急病人対応の迅速化のため導入した制度

JALとANAは2016年に機内での急病人対応を迅速化するため、医師登録制度を導入した。JALは2016年2月に「JAL DOCTOR登録制度」を開始(*8)。この制度は、日本医師会の提案を受けて構築され、国内の航空会社として初めて導入された試みである。

この制度の目的は、機内で急病人が発生した際、事前に登録された医師に客室乗務員が直接協力を要請し、迅速な応急措置を行えるようにすることだ(*9)。ANAも同年9月に「ANA Doctor on board」を導入(*10)。ANAでは7月から医師の募集を開始し、9月より国際線で運用を開始した。対象は、日本の医師免許を保有するANAマイレージクラブ会員である(*11)。

両社が制度を導入した背景には、機内での医療対応の必要性が高まっていることがある。例えば、JALでは2019年度に596件の機内医療対応が発生し、そのうち191件で医師の協力が求められた(*12)。この登録制度により、従来の「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」というドクターコールを行わずに、登録医師へ直接協力を依頼できるようになった(*13)。

しかし、この制度にはいくつかの課題も存在する。最大の問題は、機内で医療行為を行った医師の法的保護が不十分である点だ。現行制度では、医師が機内で診療行為を行った際の責任の所在が曖昧であり、訴訟リスクを懸念して協力をためらう可能性がある(*14)。

JAL DOCTOR登録制度

  • 日本医師会発行の医師資格証を持つJALマイレージバンク会員の医師が対象
  • 登録医師は、JALのウェブサイトから事前に登録を行う
  • 機内で急病人が発生した場合、通常のドクターコールの前に、まず登録医師に援助を依頼
  • 登録医師の情報(医師であることと主な診療科の2情報のみ)が搭乗便の客室乗務員に伝えられる
  • 登録医師には、JALのラウンジサービス利用などの特典が用意されている
  • JALは、ドクターコールに応じた医療従事者の賠償責任をカバーする保険に加入している

ANA Doctor on boardについて

  • 2016年9月から国際線を中心に運用を開始した医師登録制度
  • ANAマイレージクラブ会員で日本の医師免許を持つ医師が対象
  • 機内で急病人が発生した際、通常のドクターコールをせずに登録医師に直接協力を依頼できる
  • 登録には医師免許証のコピーと顔写真付きの身分証明書が必要
  • 登録医師の情報(医師であることと主な診療科)が客室乗務員に伝えられる
  • 登録医師でも体調不良などの理由で対応を辞退することができる
  • 医療行為による損害賠償責任が発生した場合、故意または重過失を除き、ANAが対応する
  • 機内の医療物品についての詳細情報を公開し、登録医師が事前に確認できるようにしている
  • 制度導入により、迅速な救急医療処置と他の乗客の不安軽減を目指している
  • 登録医師がいない場合や対応できない場合は、従来通りのドクターコールを実施する

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引用・参考文献

(*1)「【弁護士に聞いてみた】AEDを使ってセクハラになる可能性ってありますか?」AEDガイド 2023年3月31日

(*2)「女性に対するAEDの使用について知っておきたいこと」旭化成ゾールメディカル 2025年2月7日

(*3)竹内想「『善きサマリア人の法』とは?医師の免責をとりまく日本の現状を解説|医師向けお役立ち情報」ドクタービジョン 2023年11月14日

(*4)「【女性とAED】法的不安を解消するための『善きサマリア人の法』」EDガイド 2024年2月28日

(*5)竹内想「『善きサマリア人の法』とは?医師の免責をとりまく日本の現状を解説|医師向けお役立ち情報」ドクタービジョン 2023年11月14日

(*6)竹内想「『善きサマリア人の法』とは?医師の免責をとりまく日本の現状を解説|医師向けお役立ち情報」ドクタービジョン 2023年11月14日

(*7)竹内想「『善きサマリア人の法』とは?医師の免責をとりまく日本の現状を解説|医師向けお役立ち情報」ドクタービジョン 2023年11月14日

(*8)「『お客さまのなかにお医者さまは』不要 医師登録制度開始 JAL」乗りものニュース 2016年2月5日

(*9)「『お客さまのなかにお医者さまは』不要 医師登録制度開始 JAL」乗りものニュース 2016年2月5日

(*10)「ANA、医師登録制度『ANA Doctor on board』を9月運用開始」トラベル Watch 2016年5月26日

(*11)「ANA、医師登録制度『ANA Doctor on board』を9月運用開始」トラベル Watch 2016年5月26日

(*12)「『機内にお医者様はいらっしゃいますか』はもう聞かない? ANA、JALの新施策」Forbes JAPAN 編集部 2021年8月20日

(*13)「ANA、医師登録制度『ANA Doctor on board』を9月運用開始」トラベル Watch 2016年5月26日

(*14)「『お客様のなかにお医者様はいらっしゃいませんか?』で実際に医師が対処した結果、わかってきた問題点とは?」Gigazine 2016年9月6日

(『ジャーナリスト伊東 森の新しい社会をデザインするニュースレター(有料版)』2025年2月23日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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