連日メディアで取り上げられている、ミャンマーとタイの国境地帯で進む国際詐欺集団摘発のニュース。先日掲載の記事でもご紹介した通り、その9割が中国人とも伝えられています。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、このような犯罪集団の「リクルートの手口」を詳しく解説。さらに何が彼らの人集めの巧妙化を招いたかについて考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:「今日のウクライナは明日の台湾」のロジックが完全に通用しなくなった東アジア
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「リクルートの手口」も巧妙化。海外で急速に巨大化する中国人を狙う特殊詐欺グループ
タイやミャンマー、ラオスを中心に特殊詐欺などを働いていたとされる犯罪集団の摘発が相次いでいる。
2月21日には、ミャンマー南東部のミャワディ地域で詐欺に関与したとされる中国籍の容疑者約200人が、タイ経由で中国警察に護送されてきた。
200人を護送するのにチャーター機を4機も要したが、今後はさらに800人以上の中国籍の容疑者を順次送還する予定だという。
巨大組織にダメージを与える大規模な作戦だった。中国のテレビニュースには両手を拘束されタラップから降りてくる容疑者たちの様子が連日のように報じられている。
中国公安部は、「中国、ミャンマー、タイによる国際警務・法執行協力を象徴する重要な戦果」と胸を張った。
今回の大捕り物劇は、1月上旬の中国人俳優・王星(芸名・星星)さんがタイ入国後に突然失踪した事件(王星さんの芸名から「星星事件」と呼ばれる)が始まりだ。これとほぼ同時期にタイで行方を断った21歳の照明技師、25歳のモデルと合わせて中国国内では強い関心が寄せられていた。
事件は、王さんたちを電話で勧誘したブローカーの名前から「『顔十六』事件」とも呼ばれた。ちなみにキーマンとされた顔十六は、警察チームが犯罪拠点へと踏み込む過程で自ら出頭してきた。
偶然にも筆者は、王星さんが消えたことが問題になったころにタイの首都・バンコクにいた。そのため現地が動揺する様子を間近で感じることができたのだが、そのほとんどは、中国人観光客の予約のキャンセルラッシュに慌てるタイの様子だった。
リゾート観光地のタイにとって書き入れ時の春節前とあって、絶望の声が現地では響きわたっていた。
今回の摘発劇では、中国とミャンマー当局の協力にタイ警察が積極的に動いた。それは、観光地としてのイメージ回復が死活問題だったことがある。
中国人観光客に限らず、いまタイにとって中国との関係が重要であることは言を俟たない。
そのことは、黒竜江省哈爾浜(ハルビン)市で開催された第9回アジア冬季競技大会の開会式に出席したペートンターン・シナワット首相が、「中国系の血を引くタイ首相として、両国関係のより高いレベルの発展を促進すべく絶えず努力していく」とリップサービス気味に語ったことからも分かる。
今回の詐欺グループ撲滅作戦で一部の東南アジアのメディアが焦点を当てたように、タイ警察は中国から派遣されてきた中国公安部のチームと密に協力していた。中国側はミャワディに拠点を構える大規模な犯罪組織が少なくとも36あるという情報をタイとミャンマーにもたらした。
犯罪グループの拠点急襲では、その前に国境をまたいでタイ側から供給されていた電力や通信を止めるといった手段が使われたが、それをタイに求めたのが、実は中国だという噂は絶えず、そのことに疑問を抱く声も少なからず聞こえてきたのだ。
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