トランプもプーチンも完全無視。国際安全保障確立の舞台で蚊帳の外に置かれてしまった「国連」の惨状が意味するもの

 

トランプの「威嚇」に上がる非常に強い怒りの声

同様の状況はガザ情勢を巡る国際的な取り組みにも顕著に見て取れます。

冒頭のグティエレス事務総長の訴えかけの内容に全く異論はなく、私は心から支持しますが、実際にはガザ情勢を巡る諸々の話し合いや協議において、国連は相手にされておらず、こちらもまたアメリカが台風の目になり、イスラエルやアラブ諸国を巻き込んで、“今後とのこと”を決める構図になってきていることは否定できない現実になっているように見えます。

そして恐れていたことが3月5日夜に起きました。トランプ大統領がSNSを通じて、ハマスに最後通牒を突き付けたことで、アメリカが明らかに親イスラエルの立場を取り、ハマスの言い分には一切耳を傾けることなく、厳密には“紛争部外者である”アメリカが紛争当事者に対して一方的に対応策の実施を命じるという状況が生まれました。

Post-Gaza Warの復興支援についてアラブ諸国が団結して、具体的な内容をこれから協議しようという協力と協調に向けての機運が高まってきた矢先に、その団結に氷水を浴びせるような威嚇をアメリカが行ったことに対しては、アラブコミュニティはもちろん、ニューヨークにおける外交コミュニティにおいても非常に強い怒りの声が上がっていることをご紹介しておきたいと思います。

ウクライナを巡る問題へのアメリカ政府の対応とは異なり、対イスラエル・ハマスへの対応の背景には「10月7日の“ハマスによるテロ事件”にUNRWAの職員が加担していた」という、国連にとっては非常に不都合な真実が存在しますが、それでも、これまでガザ地区の一般市民に対する人道支援の実施において、国連の存在は不可欠なものであったこと、そして不可欠でありつづけることは変わらない事実だと考えています。

しかし、実際には国連はすでに停戦協議の枠組みからは取り残され、国連事務局の政治・平和維持局の内部にあるMedication Support Unit(調停サポートユニット)も一切活用されることなく、アメリカ・エジプト・カタールによる仲介努力と、アラブ連合諸国の関与という形式での“ガザのありかた”の議論が別のラインで淡々と進められるという構図になってきています。

同様の傾向はレバノンのヒズボラを巡る対応でも見られます。1970年代から駐留し、イスラエルとレバノンの間の停戦監視に従事してきたUNIFIL(国連レバノン暫定駐留軍)に対しても、イスラエルはヒズボラを支援しているのではないかと一方的に嫌疑を投げかけ、イスラエル軍がヒズボラ掃討作戦に出た際にもUNIFILに対して容赦なく攻撃を加えたという、これまででは考えられなかった事態が続発しています。UNIFILに部隊を派遣しているイタリアなどは、イスラエルによる国連軍への攻撃を激しく非難したものの、それ以降、その非難は下火になっていて、気が付けば議論の表舞台からは消え去っています。

またイスラエルとヒズボラの停戦合意の交渉および実施状況の監視というプロセスにおいても、そこには国連の居場所も姿もなく、代わりにアメリカ(親イスラエル)とフランス(旧宗主国)が停戦合意を仲介し、停戦監視をするという不思議な構図になってしまっています(ちなみに実際にはその停戦監視はうまく行っておらず、また米仏共にイスラエルを制することが出来ておらず、実際にイスラエルが公然と合意内容を破ることにレバノン政府も怒り心頭で、今後、ガザを巡る情勢を含む地域全体の状況の行方次第では、イスラエル・レバノン戦線もまた再点火し、大爆発する可能性が懸念されます)。

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