「他の国が悪い」進まぬ停戦協議に激怒のトランプ大統領が犯しかねない“アメリカお得意”の大失敗

 

トランプがウクライナの弱みに付け込み受け入れさせたディール

その後、アメリカ政府とウクライナ政府の協議が始まりましたが、その中身と協議の形態から受けた印象では、【アメリカ政府がロシア政府と話し合った内容をウクライナに受け入れさせる】というように見え、どこかウクライナを見下したようなニュアンスが込められているように感じます。

ホワイトハウスでのトランプ大統領とゼレンスキー大統領との首脳会談時の茶番劇の顛末もそうですし、一方的にウクライナのレアアースの権益の半分をアメリカに譲渡し、これまでアメリカ政府がウクライナに支援してきた“もの”を取り戻すという、ハチャメチャなディールを、ウクライナの弱みに付け込んで受け入れさせ、表面的に【迅速な戦闘終結を成し遂げた】という張りぼての成果を急いだ感が透けて見えます。

それをゼレンスキー大統領が拒否すると、強硬姿勢に出て、ウクライナへの武器供与を一時停止し、ウクライナ軍への情報提供も停止して圧力をかけ、そして今週、【30日間の包括的停戦に向けた提案】を、ウクライナ側が再三求めてきた“安全保障の確約”を提供することなく、ウクライナ政府に合意させるという荒業に出ました。おまけに“あの”レアアースの権益をアメリカに譲るという協議を再開するという言質までウクライナ側から取りました。

ウクライナ交渉団の“成果”または“踏ん張り”としては「ロシア側の受け入れを以て、この提案の実施が開始される」という文言を入れたことかと思いますが、ロシアがこれを受け入れる可能性は極めて低いと考えます。

その理由の一つは、先述の通り、ロシア側が考慮しているのは、米ロ間で行われた協議の中身であり、ロシア抜きで築き上げられた今回の“停戦案”ではないことが挙げられます。

ロシア政府のペスコフ大統領報道官は「提案の内容は精査したうえで、どのように扱うかを決める」と言っていますが、実際には、先日米ロ間で話し合った内容を精査している段階で、ロシアが提案内容に関与しない新しい“もの”が突き付けられ、ロシアとしてはまともに扱う気がないというように理解することができると考えます。

またアメリカ側から返答期限を突き付けられていないこともあり、個人的には返答をしないか、引き延ばして、時間稼ぎを行うものと見ています。

実際にこの“提案”が発表された後も、ロシアによるウクライナに対する攻撃は激化し、先にミサイルで攻撃したところを再度爆撃するという、念には念を入れた破壊を繰り返して、軍事的な優勢を固定化する動きを加速させています。

そして2つ目の理由は、この動きにも繋がりますが、今回の提案の受け入れは、一旦停戦してその間に戦力の再調整を行うための時間稼ぎができるという利点があるように見えますが、提案を受け入れた場合、プーチン大統領が重視する【ウクライナに一時奪われたロシア・クルスク州の全面的な奪還】を困難にするという欠点があるため、早期の提案の受け入れはしないと考えられることです。

提案を受け入れるか、受け入れるそぶりを見せる代わりに、ロシアは一気に攻勢を強め、クルスク州の奪還を図り、同時にミサイルなどを用いてウクライナにさらなる悲劇をもたらし、内からゼレンスキー政権を転覆させ、ウクライナ側から戦争を止めさせるように圧力をかけることを画策しているように見えます。

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