まともな状態での交渉が行われていないという現状
また協議の裏で進められるイスラエル政府によるヨルダン川西岸でのユダヤ人入植の拡大と、パレスチナ人との衝突が激化しており、国際社会の目がガザに向けられている間に、イスラエルはじわりじわりとパレスチナそのものの壊滅に勤しんでいるようにも見えるため、まともな状態での交渉が行われていないのも現状です。
トランプ大統領がハマスに対して一方的な最後通牒や、ガザ地区をアメリカが所有し、パレスチナ人を恒久的に周辺国に移住させるという奇妙な案は、静観を決め込んでいたアラブ諸国の目を覚まし、アラブ諸国主体の行動をとらせることにつながったものの、イスラエルは、極端にイスラエル寄りのトランプ政権のアメリカの影に隠れてまともに話し合いに加わらず、アメリカもまた、アラブ諸国との協議に真剣に臨んでいない様子が鮮明になっていて、解決の糸口が見えてこない事態に迷い込んでいるように見えます。
その影響はヒズボラの影響力低下を狙うイスラエルとレバノン政府の間で結ばれた停戦合意の実効性にも暗い影を落としています。
こちらもアメリカと旧宗主国のフランスが仲介して停戦合意を成し遂げましたが、3月1日の期限を以てイスラエル軍が撤退するという約束が反故にされたことで、レバノンとイスラエルの間に軍事的な緊張が高まっています。
問題は仲介したフランスは実質的に、停戦監視の役割をまともに果たせておらず、アメリカについては、ここでもイスラエルの代弁者であるかのように振舞い、イスラエル軍が緩衝地(レバノン南部)に駐留し続けることに対して圧力をかけず、実質的に後押ししていることで、国内でのヒズボラの復活を後押ししそうな感じです。
レバノン国会は、ヒズボラに厳しい姿勢を取る元国軍司令官のジョセフ・アウン氏を大統領に選出して、ヒズボラの影響力を削ぐ姿勢を示して、イスラエルとの停戦合意の完遂とイスラエルとの軍事的な緊張の緩和および撤廃に動こうとしていますが、その呼びかけにイスラエル側が真剣に答えていないというのが、どうもレバノン国内の反応で、その緊張の高まりが、弱体化させたヒズボラの復権を願う勢力を勢いづけ、レバノンの国内情勢もまた緊迫化し始めたという情報が入っています。
ここでも停戦合意をお膳立てしてみたものの、実質的な合意の監視は不発に終わっているアメリカの中途半端な対応が、さらなる緊張を生むという悪循環の例が見受けられるように思います。
そして中東地域での戦火の拡大を予想させる事態が、隣国シリアで深刻化し始めています。
アサド政権を打倒し、新生シリアを誕生させるプロセスが始まったかと思っていましたが、今週になって旧体制派(アサド派)がシリアの各地方で武装蜂起をはじめ、国内がまた収拾のつかない非常にfragileな状況に陥っています。
このfragileな国内情勢が、周辺国に介入の機会を与え、特にトルコとイスラエルの水面下での争いが激化してきています。
トルコにとっては、予てより、憎きクルド人勢力排除のためという名目でシリアへの攻撃を正当化していますし、イスラエルに至っては、長年の係争地であるゴラン高原にイスラエル軍を駐留させて実効支配を強め、新生シリアに対してプレッシャーをかけ続けていますが、そのような際に旧体制派の勢いが盛り返してきていることで、再度、シリアは内戦状態に陥り、その混乱に紛れて、イスラエルとトルコがシリアに対する領土欲と影響力の拡大を画策しているようです。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ








