「他の国が悪い」進まぬ停戦協議に激怒のトランプ大統領が犯しかねない“アメリカお得意”の大失敗

 

トランプの「脅し」を深刻にとらえていないプーチン

そして3つ目の理由は、トランプ大統領が受け入れを迫る際に用いる関税措置やさらなる経済制裁の実施という“脅し”をロシアが深刻にとらえていないことが挙げられます。

欧米諸国による経済制裁は、全く機能していないとまではいいませんが、抜け穴は多く、中国やインド、グローバルサウスの国々などがロシアとの貿易を続けていることと、中国・インドがロシアから原油・天然ガスを大量に買い付けていることと、実利主義の典型ともいえるトルコがロシアとの交易を実施しているため、実はロシア国民はあまり不自由を感じていないというデータもあるため、今回の脅しもまともには捉えられていないと思われます。

さらに関税措置絡みでは、ロシアによるウクライナ侵攻以降、米ロ間の直接貿易は規模としては減っているものの、ロシアがアメリカ産のものを必要としない半面、アメリカの産業が必要とするものをロシアが相変わらず握っているという実情から、無計画な関税措置の乱発は、逆にアメリカの産業の首を絞めるのではないかという分析があるため、これもまた脅しが通用しないことが分かります。

メディアでは“30日間の停戦に向けた提案”をウクライナが受け入れ、ボールはロシア側にあるという状況を歓迎し、EUのフォンデアライデン委員長も「大きな前進」と評価していますが、ロシアには合意を急ぐ理由が乏しく、恐らくお得意の時間稼ぎが行われ、のらりくらりと圧力をかわしつつ、北朝鮮やイランからの武器供与を受け、国内でも軍備の再増強を行って、ウクライナに対する攻撃を強めることで、違った意味でボールを投げ返し、ウクライナに対してというよりは、アメリカに対して「停戦が欲しければ、ロシアの条件を受け入れよ」という圧力をかけ、停戦合意という成果を急ぐトランプ大統領の足元を見るような行動に出るものと思われます。

協議と並行して、アメリカ不参加の中、NATO諸国がウクライナ戦後復興のための会議をパリで行っていますが、果たしてそこで決められた内容を実施できる日が来るかどうかは不透明と言わざるを得ません。

今後の進展が期待できない状況に陥っているガザの停戦

次にガザ地区およびレバノン情勢を巡る駆け引きを見てましょう。

トランプ大統領の信頼が厚いウィトコフ氏が中東問題特使として和平を模索していますが、こちらもまた状況は芳しくありません。

トランプ大統領の再登場は、確かにイスラエルと中東諸国に“停戦”を促す初期効果を生み出しましたが、極端なイスラエル寄りの姿勢を保ちつつ、停戦に向けた提案を書き上げるという矛盾を押し通す姿勢は、中東地域、特にガザ地区とレバノンに安定をもたらすよりは、不透明性が生み出すさらなる緊張と、新しい戦争の火種を作っているように見えます。

ガザにおけるイスラエルとハマスの停戦については、第1段階の途中までは紆余曲折ありつつもうまく進んでいるような印象を受けましたが、その終盤には人質交換がスムーズに行われず、双方が攻撃再開のポーズを示し始めたことで、期限の3月1日までに合意内容の完遂は行われず、その後、第1段階の延長については明確な合意がないまま、惰性で延長されているように見受けられます。

その第1段階の停滞を受け、恒久的な停戦に向けての協議もストップしており、今後の進展が期待できない状況に陥っています。

ウィトコフ氏は、イスラエル、ハマスの代表、カタール政府、エジプト政府、そしてサウジアラビア王国などと繰り返し協議し、落としどころを探っていますが、その合間にトランプ大統領がとんでもないことを発言するため、まとまりかけた協議もまた空中分解するという事態に悩まされているようです。

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