緊張の拡大と新たな戦争の火種を作り出しかねないトランプ外交
ここで注目すべきは、この懸念すべき事態に対して、アメリカがほぼ無反応である点です。
これまで中東地域に“も”停戦と和平をもたらすことを宣言してきたトランプ大統領ですが、どうも経済的な圧力と軍事力の見せつけ、そしてイスラエルを利用することで、安易にそれが達成できるかのように思い込んでいるようで、合意の中身についてはあまり関心がないように思われます。
合意が長続きするかどうかにあまり関心がなく、あくまでも合意ができればいいというのが、トランプ大統領の望む姿なのであれば、彼が叫ぶ“停戦の実現”は建前だけの全く実を伴わない中身のないものであり、それは長期的な和平につながるどころか、逆に混乱を拡大し、紛争の火種を再度起こすか新たに作り出すかという、非常にネガティブな結果を導き出すようにしか思えません。
今、はっきりと見えているのは、トランプ大統領と政権が成果を急ぎすぎ、焦って中身を精査しないまま突き進む無茶な姿ですが、各国はそれを重々承知で、紛争の当事国は、ウクライナという例外を除き、合意を急がず、のらりくらりとアメリカからの圧力をかわしつつ、自国・自陣にとってできるだけ有利な状況を作り出させようと動いているように見えます。
今週に入って、内戦のみならず、隣国ルワンダからの軍事的な圧力に苛まれているコンゴ民主共和国が、アメリカ政府に対して軍事支援の要請の見返りに、豊富なレアアース(特にコバルト)の提供を申し出ているというニュースが明らかになりましたが(恐らく、ウクライナに関わるディールから学んだのでしょうか)、明らかにアメリカをアフリカに引き込み、自国にとって有利な状況を作り出そうという企てが目に見え、それがまたさらなる混乱と緊張を生み出すという悪循環が加速するように見えてきます(ちなみに、ルワンダはこれに対して、中国とロシアを引き込み、ここでもまた代理戦争が勃発しそうです)。
トランプ大統領の登場で、もしかしたらかなり複雑化して解決の糸口が見えてこない複数の紛争を一気に解決できる魔法が生まれるのではないかと期待してみたのですが、外交のプロを排し、Yesマンばかりで固めて自身の考えを押し付けるスタイルで行う“外交”は、緊張の緩和ではなく、緊張の拡大と新たな戦争の火種を作り出すという恐ろしい状況を生み出しているように見えてきました。
もしかしたら就任から100日が過ぎれば少しは大人しくなるといいのですが、恐らく「うまくいかないのは、他国が悪いのだ」という責任転嫁が始まって一気にアメリカが手を退くというような状況になって、それがまた「かき回すだけかき回して、後片付けは他国に押し付ける」アメリカお得意の大失敗を繰り返すことにつながるような気がしてなりません。
このような非常に複雑に絡み合った混乱時にこそ、国際的な調停グループが能力を発揮しないといけない時なのですが、アメリカ政府から協力を拒まれ、特にウクライナ案件には関わらないようにとのお達しが来ており、それに反発する欧州各国という変な争いに巻き込まれつつあり、非常に懸念すべき状況に陥っています。
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