トランプに対ロ交渉カードとして用いられるウクライナ
以前、「国際情勢の表舞台にプーチン大統領がカムバックし、今では各国を自らの掌の上で踊らせ、ロシアにとって有利な状況を作り出そうとしている」という分析を示しましたが、見方によってはその戦略は見事に奏功しているように見えます。
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そのプーチン大統領の戦略は、トランプ大統領が“停戦”を急ぐ焦り度合いとも相まって、ロシア・ウクライナ戦争の結末に対しても、ロシアに有利な条件を次々とトランプ大統領にのませることに役立っているように思われます。
アメリカの戦争研究所などの分析によると、「プーチン大統領は一枚も二枚も上手で、トランプ大統領をうまく操り、まず欧州諸国と決別させ、その上で停戦協議に積極的に応じるという条件を掲げながら、ロシア側の条件をトランプ大統領に丸呑みさせ、究極的にはウクライナへの侵攻の事実さえ、なかったことにさせようとしているのではないか」という見解も出てきています。
調停グループを通じた協議を行っていても、トランプ政権の息がかかっているアメリカのメンバーたちは、時折、まるでロシア政府のエージェントかと疑うような発言をすることが多く、最近では「ロシア・ウクライナとの協議を長引かせる時間的な余裕はアメリカにはない。内容よりも、とにかく停戦合意と、停戦という事実がアメリカには必要なのだ」という意見も聞かれる始末で、まさにロシアの思うつぼではないかと懸念する状況です。
「ロシア、プーチン大統領に対して苛ついている」という発言をしつつも、トランプ大統領はプーチン大統領批判を避け、「彼となら素晴らしいディールが出来る」と持ち上げたり、「プーチン大統領は素晴らしいリーダー」と褒めたりして、様々な案件においても、バイデン政権時とは打って変わって、ロシア非難をトーンダウンさせ、プーチン大統領を取り込もうとしていますが、そこは恐らくプーチン大統領の思い通りになっていると思われます。
そのような状況下では、確実にウクライナは対ロ交渉カードとしてアメリカに用いられ、ウクライナがいないところでウクライナの運命が決められるという恐るべき状況に陥ることが目に見えています。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、不利になる一方の戦況と、アメリカからの支援のすぼみに直面し、自らの去就まで交渉のテーブルにあげて、欧州各国の関心を惹き、かつ支援を引き出そうとしていますが、それに乗ってくるのは英仏のみで、それもお得意の口約束と、待てど暮らせど届かない実際の支援という悪循環の繰り返しだと思われるため、日に日に八方塞がりの状況が鮮明になってきています。
トランプ大統領がロシア・ウクライナ間の戦争を終結させるという約束は、うまく行けば彼を本当のpeace makerにし、かつ世界に安定をもたらす光となるはずですが、実際には、その“光”に自ら惑わされ、紛争をさらにややこしくし、そして解決のためのドアを閉じてしまいそうな状況です。
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