世界経済を大混乱に陥れているトランプ大統領の相互関税。日本をはじめ各国に厳しい数字が突きつけられる中、リスト内にロシアが含まれていないことがさまざまな憶測を呼んでいます。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、トランプ氏が関税リストからロシアを除外した思惑を考察。「2つの可能性」を取り上げ各々について詳しく解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:トランプ大統領はSaverなのか?それともDestroyerなのか?
トランプは救世主なのか、破壊者なのか。遠くない未来に世界が目の当たりにする現実
「トランプ氏は世界を破壊している」
トランプ大統領が相互関税の発動を発表した後、そう叫んだのは別に各国のリーダーやビジネスリーダーだけではありません。アメリカ国内でも民主党・共和党の支持者がそのような抗議を行い、バイデン時代以上に国内が分断していることが分かります。
相互関税が発表された後、一夜にして世界中の株式市場では数兆ドル規模の“価値”が吹っ飛び、多くの国の経済に凄まじいショックを与えました。
中国のように報復関税合戦を行い、本格的な貿易戦争に打って出た国もありますが、ほとんどの国は、ショックの中、あたふたし、トランプ政権に対していろいろなチャンネルから取り繕い、何とか関税率を下げてもらうか、できれば関税の発効を止めてもらえないかと懇願する姿が見えました。
4月10日現在、急にトランプ大統領は「アメリカに対してディール・メイキングを持ち掛けている国々に対する関税を90日間停止する」と発表し、一時は各国の投資家たちにひと時の安堵を与えたように見えますが、実際には先行きの見えない、何とも気味の悪い状況が続いていると見るのが適切ではないかと考えます。
「交渉の最初の段階で無理難題を条件として提示し、あとは黙り込んで、相手がひとりでに妥協を始めるのを待つ」というのは、旧ソ連、そしてロシア流の独特の交渉術ですが、トランプ大統領の用いた交渉術は、「無茶な条件を突き付け、実際に脅しをかけて、自分の望むものを得る」という戦略ならばそれに似ているように思いますが、この段階で90日間の発効停止をアナウンスするのは、ピュアに交渉戦術だけを見ると不十分な気もします。
ただ評価するならば、世界的な戦争のトリガーになりかねない世界経済の崩壊、言い換えると世界の自由貿易体制に支えられる経済システムを破壊するという惨劇は、寸前で回避することが出来たと言えるでしょう。
今後、各国がトランプ大統領を相手にどのようなディール・メイキングを試みるのか、そしてその結果、関税に絡む無茶ぶりがどのような結果に収まるのか、まだ予測が付きません。
ところでこのトランプ関税劇場の裏で、不可解なことが起こっていることに皆さんはお気づきだったでしょうか?
すでにホワイトハウス報道官が発言しているので広く知られることになりましたが、今回のトランプ関税(相互関税)からロシア(そして北朝鮮とベラルーシ)が除外されています。
報道官曰く「ロシアとアメリカの間にはほとんど貿易の実績がない」とのことですが、ここで問題なのはtrade volumeではなく、ロシアからアメリカは何を買っているのか?という点です。
答えはアメリカの原発を稼働させるためのウラン鉱石と、アメリカの大規模農業生産を裏支えする化学肥料です。
アメリカとロシアの間の貿易の品目はすくないものの、これら2品目に関しては完全にロシアに依存しているようで、ピュアに相互関税から得られるものはなく、どちらかというとアメリカを傷つけることになりかねないとの助言があったと言われています。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ