プーチンを「習近平から引き離す」意図的な策略か?トランプ関税からの“ロシア外し”に飛び交うさまざまな憶測

 

ガザ紛争調停でアラブ諸国を激怒させたトランプの特使

それは、トランプ大統領が解決を約束したガザ情勢の混乱にも直結します。

唯一、ネタニエフ首相の暴走を止め、イスラエルに圧力をかけて、パレスチナ人に対する無差別攻撃と非人道的な行為を停止させることができる存在と思われたトランプ大統領ですが、実際に停戦のための働きかけの内容は、100%イスラエル・ネタニエフ寄りの条件の押し付けと、イスラエルによるガザ占領と、パレスチナ人の追放という、とんでもないものであることが明らかになり、彼の特使として仲介を行うウィトコフ氏も、仲介・調停の任務の遂行というよりは、完全にトランプ氏の条件の押し付けしかできず、仲介人にあってはいけない一方的な発言や、脅しにも似た内容の押し付けなどが頻繁に見受けられるため、より状況を複雑にし、さらには味方につけるべきサウジアラビア王国をはじめとするアラブ諸国を激怒させる結果になってしまっています。

以前、「ガザはアメリカが所有し、再開発を行う。ガザの住民は周辺国に移住しなくてはならない」と発言し、国際社会を混乱させ、かつアラブ諸国を激怒させたトランプ発言ですが、最近はまるでその発言に沿った行動をとるかのように、イスラエル軍はガザ地区への攻撃を激化させ、すでにガザ地区の50%強を占拠し、支配する状況になっています。

またネタニエフ首相も、トランプ大統領の発言を引用し、「ガザの人たちはガザから出ていくべきだし、彼らはどこにでも行くことができるのだから、一刻も早く出ていくのが、彼らのために最も良いのだ」と述べて、イスラエルによる強硬策を正当化しています。

その主張と正当化はガザ地区に対する蛮行に留まらず、国際社会の目がガザに惹きつけられている間に、ヨルダン川西岸地区に対する大規模攻撃を行い、パレスチナ人のインフラを徹底破壊して更地化し、極右政党の願いのままに、ユダヤ人入植地の拡大に勤しみ、これを機に、一気にパレスチナを破壊しようとしているように見えます。

その刃はパレスチナに留まらず、ガザ同様、停戦合意が成立していたレバノンにも及び、レバノン政府がヒズボラを制御できていないと文句をつけ、それを理由にレバノンの首都ベイルートとその近郊に対する空爆を行っています。

現政権は可能な限りヒズボラの影響を排除して、何とかイスラエルとの和平を保とうとしていますが、イスラエルにとっては、特にネタニエフ首相が率いるリクードにとっても、連立を組むユダヤの力にとっても、レバノンの存在は、イスラエルおよびイスラエル人の生存にとっての脅威という認識が強く、“イスラエルの懸念を100%理解してくれる”トランプ政権の傘を着て、レバノンにケチをつけて、国家安全保障上の脅威に仕立て上げて一気に叩こうという魂胆が見え隠れしています。

そして同様の“戦略”は、アサド家を追い出し、国内で権力闘争が続き、まだ国家基盤が固まっていないシリアに対しても用いられています。

イスラエルは、イスラム過激派にカテゴライズされるシャラア氏による暫定政権を危険視しており、その暫定政権から新政権樹立に至る過程で、シリアの軍事的能力が高まる前に何とかシリアを制御したいと願っているようです。

アサド前大統領がロシアに亡命し、ダマスカスをはじめ、シリア各地で反アサド派が勝利を収めた混乱の影で、長年の係争事案であったゴラン高原の実効支配を確実なものにし、さらにはシリアに対する領土的な野心も明確に打ち出し始めています。

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