米スポーツリーグの設計思想に生きる「金ピカ時代」の教訓
アメリカのスポーツリーグ、特にNFL、NBA、MLB、NHLといった米4大スポーツリーグでは、戦力の均衡を重視する独自の運営方式が採られている。これらのリーグは、欧州サッカーリーグのような昇格・降格制度を持たず、「クローズドリーグ」と呼ばれる閉じた構造をもつ。
戦力均衡を実現するため、アメリカのスポーツリーグではさまざまな制度が導入されている。代表的なものには、サラリーキャップ(選手給与総額の上限)、収益分配制度(レベニューシェアリング)、ドラフト制度などだ。こうした制度により、小規模な市場のチームでも一定の競争力を維持できる環境が整えられている(*2)。
この「社会主義的」とも評される仕組みは、一見すると資本主義を体現するアメリカ社会とは矛盾するように映る。しかし、実はこの構造こそが、アメリカの産業社会における歴史的な教訓を反映したものだと言える。
19世紀末から20世紀初頭の「金ピカ時代(Gilded Age)」には、大企業による独占や富の集中が進み、深刻な社会的不平等が問題となった。その反省から、スポーツ界においては「弱肉強食」ではなく「共存共栄」を志向する理念が形成されたとも指摘される(*3)。
戦力均衡は単なる理想論ではなく、スポーツビジネスとしても重要な要素だ。
▽米国の4大スポーツ(NFL、NBA、MLB、NHL)と欧州サッカーとのリーグ構造の違い 「クローズドリーグ」と「オープンリーグ」の観点から
■クローズドリーグ(米国4大スポーツ)
- 定義
チームの数や所属は固定されており、成績による昇降格が存在しないリーグ形式 - 特徴
フランチャイズ制:各チームはリーグ内での参加権を持つ「フランチャイズ」として運営され、チームは売買可能
ドラフト制度:新人選手を公平に分配するため、成績下位チームが上位指名権を得るドラフト制度を採用
収益共有:チーム間で収益を分配し、財政的安定を維持
拡張と移転:新規チームの参加や既存チームの移転はリーグの承認が必要 - メリット
財政的安定性が高く、長期的な投資が可能
成績に関係なくリーグ参加が保証されるため、リスクが少ない - デメリット
昇降格がないため競争性が低下する可能性
下位チームの成績向上へのインセンティブが弱い場合もある
■オープンリーグ(欧州サッカー)
- 定義
成績によって昇格や降格が行われるリーグ形式。チームはパフォーマンスに応じて異なる階層間を移動する - 特徴
昇格と降格:上位チームは上位リーグへ昇格し、下位チームは下位リーグへ降格する制度を採用
新規参入の柔軟性:新しいクラブが下部リーグからトップリーグへ進出する可能性あり
競争の激化:成績向上への強いインセンティブが存在する - メリット
リーグ全体における競争性の向上
下部リーグにも注目が集まり、クラブや選手の発展を促進 - デメリット
財政的リスクが高く、降格による収益減少やクラブ存続への影響が大きい場合あり
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