トランプの「プーチンを説得できるのは自分だけ」という勘違い。“裸の王様”の取り扱いを熟知する露に利用され国際社会から孤立する米国

 

トランプ政権が着々と進める「責任転嫁」の準備

ではゼレンスキー大統領に対してはどうでしょうか?

一つ言えることは、確実にトランプ大統領はゼレンスキー大統領を見下しており、同等のリーダーとは認めていませんが、その背後にあるのは前政権時に自らが水面下で依頼したバイデン氏の恥部の公開という要請を無視されただけでなく、公にされて顔に泥を塗られただけでなく、その後の大統領選で敗北を喫し、かつ訴追の危険性にも晒されたのは、ゼレンスキー大統領のせいだと信じて疑わないと言われています。

それゆえにゼレンスキー大統領からの要請は悉く無視し、スルーを徹底し、または非難の対象として用いて退け、「ウクライナが行うべきは私の言うとおりにすることであり、私に条件を突き付けるなど身の程知らずだ」と信じて疑わないような姿勢を貫いているように見えます。

ウクライナのレアアース権益のアメリカへの譲渡や、ザポロージェ原発をアメリカが所有するという、ウクライナがとても受け入れることができないような要求を一方的に突きつけるのもそのような心理が働いていると思われますし、何よりも個人的なリベンジを今、ウクライナとゼレンスキー大統領にとっては最悪のタイミングで実行しようとしているように見えます(このような無理難題の条件提示は、見方を変えると、ロシアによる攻撃を抑止するという効果が期待できるようにも見えますが、実際にそのようなことを真剣に考えているかは誰にもわかりません)。

ロンドンから入ってくる様々な情報を見てみても、アメリカ政府側の言い分(ルビオ国務長官が欠席を決めたため、ウィトコフ氏が伝えたもの)を見る限り、ウクライナの意見を勘案するような雰囲気は見えませんし、欧州各国に対しても、全面対決は避けようと考えているようですが、アメリカ政府が提示する停戦のための条件に対してYes or Noを答えるように強く求めているように見えます。

個人的には今回のロンドンの協議でウクライナも欧州もYESということは考えづらく、先週パリでルビオ国務長官が触れたように「近日中にアメリカが停戦協議の仲介から離脱する」可能性が高くなるように考えます。

実際に無条件での停戦を主張するウクライナ側が提案を一蹴したことで、ルビオ国務長官が欠席することが決まり、一応、閣僚級から高官級にレベルダウンして協議を米ウクライナ英仏独で開催しましたが、停戦に向けた前向きな動きは出ないままだったようです。

アメリカ政府がとった一連の動きは、実はトランプ政権のmake-upのための観測気球ではないかと考えられ、政権発足から100日以内に何らかの前向きな成果がアピールできるような状況にないと考えた場合には、saving faceのためにロシアとウクライナが“非協力的”と責任を擦り付け、トランプ政権の責任転嫁の準備が行われているものと見ています。

そうなるとどうなるか?

散々振り回し、状況をかき回すだけかき回して、結局、その責任を取らずに離脱するという、最近のアメリカ政府お得意の外交・安全保障戦略の失敗が繰り返され、ウクライナがロシアに蹂躙されるか、さらには周辺国にロシアの刃が向けられるか、そして、中ロの結びつきが強まり、かつアメリカに(トランプ政権に)愛想をつかした“元”アメリカの同盟国が、完全にではないにせよ、中ロ側になびくか、関係修復を願って一気に最接近して、秩序なき国際社会が生まれることになるかもしれません。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print

  • トランプの「プーチンを説得できるのは自分だけ」という勘違い。“裸の王様”の取り扱いを熟知する露に利用され国際社会から孤立する米国
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け