エジプトとカタールが尽力してきた仲介プロセスは無視
同じようなことはイスラエルが暴れ狂う中東地域でも顕在化してきているように思われます。
トランプ大統領は、かわいい娘Ivanka氏の婿であるJared Kushner氏がイスラエル国籍も保有するユダヤ人であり、第1次政権時にも超が付くほど親イスラエルの姿勢を取りましたが(エルサレムを首都と宣言し、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転したことなど)、その際、ネタニエフ首相がこれでもかと言うほど、トランプ大統領の言うことを聞き、トランプ大統領に取り入ったことで、トランプ大統領にとっては「ネタニエフ首相は自分を言うことを聞くかわいいやつ」という確固たるイメージが定着していることで、第2次政権においてより色濃くPro-Israelの姿勢を鮮明にさせています。
ネタニエフ首相は表向きトランプ大統領に従い、最近の関税措置(相互関税)が発表され、イスラエルも例外ではないと言われた際も、トランプ大統領の方針に反抗するそぶりは一切見せず、代わりにイスラエルは完全に服従する姿勢・恭順姿勢を鮮明にさせることでトランプ大統領からの日ごろの贔屓に応えることで、アメリカ政府からさらなる親イスラエル姿勢を引き出しています。
ウクライナ案件同様、トランプ大統領は就任前から“ガザ情勢の鎮静化・戦争の終結”を公言していましたが、彼の提示する“解決”はすべてイスラエル寄りの内容であり、さらには自らのイメージも活用して、「ガザ地区をアメリカが所有して再開発する。そのためにガザの住民は周辺国に恒久的に移住するべき」という荒唐無稽な案をぶち上げて、仲介者ではなく、イスラエルの強力なサポーターとして動くことを鮮明にしました。
ウィトコフ氏を中東特使に就け、イスラエルとハマスの停戦協議(戦闘停止と人質解放)を担当させていますが、それは中立の立場からではなく、完全にイスラエル寄りの采配を行い、うまくいかないのはすべてハマスが悪いということを公言することで、調停努力を滅茶苦茶にしています。
さらにはこれまでエジプトとカタールが尽力してきた仲介プロセスを無視し、アメリカ案をテーブルに乗せるという荒業を強行して、停戦の機運を吹き飛ばしただけでなく、それはイスラエルに付け入る隙を与え、極右が主張するガザおよびハマスの完全壊滅と、パレスチナの存在を消し去るという凶行を後押ししているように見えます。
イスラエルが行っている攻撃や人道支援のブロックなどは、明らかな国際人道法違反で、ガザで行われていることはまさにジェノサイドですが、そのような状況を招いたのは、イスラエルが悪いのではなく、ハマスの存在と柔軟性の欠如というようにレッテルを貼り、ここでもまたプロセスが失敗に終わった際の責任転嫁と撤退のための手筈が整えられている様子が覗えます。
第1次政権時にトランプ氏と非常に近しかったモハメッド・ビン・サルマン皇太子(サウジアラビア王国)は、バイデン政権に冷遇され、公で非難されたことと、中国との関係強化が進められたことで、アメリカへの依存度が大きく減少し、おまけにアメリカが敵とみなすイランと歴史的な和解を行ったこともあり、今回の第2次トランプ政権に対しては、反抗姿勢は控えているものの、協力する意図はあまりないという状況が見えます。
とはいえ、トランプ政権が主導するロシアとウクライナの停戦協議の場を提供して、アメリカとも絶妙の距離感を保つことと、再度、外交の表舞台に出るためのstepping stoneとしてアメリカを利用するという意図もあり、アメリカとも付き合いますが、前政権時ほど、べったりの関係ではなく、親イスラエルでアラブを軽視する姿勢を取るトランプ政権の姿勢に対しては、イスラエル批判を通じて非難し、同時にアラブ諸国をAnti-Israelで結集させる核となり、そこにイランとその仲間たちを加え、かつ関係修復を行ったトルコを巻き込んで、イスラエルに対する圧力を強めています。
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