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核施設への空爆は「トランプの手柄」を演出する自作自演の猿芝居。イランの報復攻撃を免れぬ米国「独断専行」の重い代償

米国トランプ大統領からの指示によっておこなわれた、米軍によるイラン核施設3カ所への空爆。イスラエルのネタニヤフ首相に乗せられたという言説もある中、なぜこのタイミングで米国は国際法も国内法も無視してイランの核施設への攻撃を決めたのでしょうか? 今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、今回の米軍による参戦を「トランプの手柄を演出するための自作自演の猿芝居」だと一刀両断。そして、この度の戦争が起きてしまった背景を説明するために、ここ約半世紀に渡るイランの内政についても詳しく解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:独断専行の産物

大嫌いなG7を途中で丸投げ、イランへの空爆準備を開始した“裸の王様”

とうとうアメリカが‥‥というか、ドナルド・トランプ大統領が、国際法も国内法も無視して、現地時間6月22日未明、イランの核施設3カ所を空爆しました。地下80メートルにあるフォルドゥの核施設にはバンカーバスター(特殊貫通弾)14発をステルス爆撃機B2から繰り返し投下し、地上のナタンズとイスファハンの核施設には潜水艦から巡航ミサイルのトマホーク30発を撃ち込んだと報じられました。

しかし、これには前段がありました。6月16日から2日間の日程で開催されたカナダでのG7サミットで、西側諸国の首脳らは「イスラエルの自衛権を支持し、イランの核兵器保有を認めない」という立場を強調する共同声明を発表したのです。

あたしはあえて「戦争」という言葉を使いますが、今回のイスラエルとイランの戦争は、6月13日未明、ネタニヤフ首相率いるイスラエル軍による先制攻撃によって開戦しました。200機以上の戦闘機でイランの100カ所以上の軍事施設などを空爆したのです。これって普通に「イスラエルの先制攻撃」ですよね?

しかし、ネタニヤフ首相は「イランの核保有という脅威から自国を守るための自衛権の行使」だと言い張るのです。そして、2023年10月の開戦から現在までに5万5000人を超えるパレスチナ人を虐殺し、今もなお民間人を殺し続けているガザ地区への執拗なジェノサイドも、ネタニヤフ首相は「ハマスの脅威から自国を守るための自衛権の行使」だと言い張っているのです。

これらは完全に「自衛権」の範疇を超えていますし、こんなものを「自衛権」と認めてしまったら、ロシアのウクライナ侵攻も何もかもが正当化されてしまいます。そのため、今回のカナダでのG7サミットでは、議長国のカナダが「イスラエルとイランの双方に自制を求める」という共同声明案を用意していました。しかし、トランプ大統領だけが署名を拒否し、半ば強引にEU諸国を従わせるような形で「イスラエルの自衛権を支持し、イランの核兵器保有を認めない」という共同声明に強引に変更させたのです。

そして、この共同声明でネタニヤフ首相による戦争犯罪の数々に「お墨付き」を与えたトランプ大統領は、大嫌いなG7サミットを途中で丸投げしてアメリカへ帰り、さっそくイランへの空爆の準備を始めたのです。G7サミットでイスラエルの自衛権を強調し、イランの核保有を批判した流れからの米軍の参戦。そして、あちこちに遺恨を残す強引な停戦の押し付け。まるでトランプ大統領の手柄を演出するための自作自演の猿芝居ではありませんか。

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「イスラム体制変換」からシレッと表現を変えたトランプ

現実的に考えれば、イスラエルだけが相手でもイランに勝ち目はないのですから、そこに米軍まで出てくればイランは白旗を上げるしかありません。取りあえずはアメリカの言うことを聞いたふりをしておき、報復の機会を待つしかないのです。すでに空爆前に大型トラック16台が濃縮ウランを運び出した模様だと報じられていますが、今のイランに報復の力はありませんから、まずは停戦合意に乗り、トランプを持ち上げて経済制裁を解いてもらい、石油をガバガバ売って軍事力を回復させるとともに、移動した濃縮ウランで核開発を再開する。これが当座の目標でしょう。

ネタニヤフ首相は「核施設の破壊」だけでなく「イスラム体制からの転換」を二大目標としていましたし、トランプ大統領も今回の空爆前にイランの人々に「体制転換」を呼び掛けていました。しかし、空爆後、トランプ大統領は「我々はイランと戦争するのではなく核施設と戦っている」と言い、ヘグセス米国防長官も「今回の作戦はイランの核開発計画の破壊に焦点を当てたものであり、イランの政権転覆を狙ったものではない」とアピールしました。

ここでアメリカが「イスラム体制からの転換」に固執すれば、イランの最高指導者ハメネイ師が殉職覚悟で歯向かって来ると分かっているからです。そのためトランプ大統領は「イランの核開発を大幅に遅らせることに成功した」などと、当初の「完全破壊」からシレッと表現を変えたのです。

今回の空爆を受けて、イランの精鋭部隊「イスラム革命防衛隊(IRGC)」は、中東域内の米軍基地を標的にした報復を宣言しました。2020年1月3日、米軍が当時のイランの実力者だったIRGCのガーセム・ソレイマーニー司令官をイラクのバクダード空港付近でドローン攻撃で殺害した時、IRGCは5日後にイラク国内の米軍基地2カ所を十数発の弾道ミサイルで攻撃して報復しました。ですから、今回の報復宣言も現実となるでしょう。つまり、これから起こる様々な報復は、すべてトランプ大統領の独断専行の産物というわけです。

さて、G7では、イスラエル軍のガザ地区への「完全に度を超えた大量虐殺」に関しても、口火を切った「ハマスによる総攻撃」が原因であり「悪いのはハマスだ」という姿勢で一貫しています。開戦当初は日本のマスコミもハマスのことを「イスラム過激派」などと報じました。ハマスは選挙によってガザ地区の住民から選ばれた政府なのに、あまりにも偏った報道でした。

そのためあたしは、開戦直後の2023年10月11日に配信した『きっこのメルマガ』第234号に「ハマスの真実」という記事を書き、長年に渡ってイスラエルから弾圧されて来たパレスチナ自治区ガザの歴史を紹介しました。戦争に至るほど対立してしまった国と国の間には、現状を見ただけで簡単に判断することのできない負の歴史があるので、まずはその背景を知ることが重要だからです。

【関連】「ハマスだけが悪」は本当なのか?知っておくべき“世界標準の真実”

そこで今回は、とうとう米軍まで参戦してしまった現在のイスラエルとイランの戦争の根本的な原因を知ってもらうため、約半世紀に渡るイランの内政について書きたいと思います。

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半世紀前までは「仲が良かった」イスラエルとイラン

今から半世紀ほど前までのイスラエルとイランは、とても仲のいい国でした。イランはイスラエルに石油を売り、両国の間には定期便が飛び交い、物流や人的交流も盛んな友好国でした。当時の第2代国王だったモハンマド・レザー・パーレビ皇帝は、アメリカを後ろ盾にして、当時のケネディ政権の要求に答える形で「婦人参政権の導入」や「ヒジャブの着用禁止」などの「脱イスラム」を含む欧米路線の近代化を進めていました。当時のイスラエルとイランは「親米」という点でも一致していたのです。

しかし、パーレビ皇帝の独裁的とも言える「脱イスラム」を含む政策を以前より批判していたイスラム教シーア派の最高指導者ルーホッラー・ホメイニ師が、シーア派を中心に「反体制運動」を呼び掛けたため、国内での対立が激化します。ホメイニ師の国民への影響力を恐れたパーレビ皇帝は1964年、ホメイニ師を拉致して国外追放としたため、ホメイニ師はトルコへ亡命しました。

その後、シーア派の聖地であるイラクのナジャフに移ったホメイニ師は、イラク国民に改革を呼び掛けるとともに、自身の「イスラム法学者による統治論(ヴェラ-ヤテ・ファギーフ)」を成熟させて行きました。そして1978年、フランスに亡命し、フランスを拠点としてイラン国内の反体制派による抵抗運動を指導しました。パーレビ皇帝の欧米路線は竹中平蔵の新自由主義と同じく国民の格差を広げ続け、拡大した貧困層を中心に体制批判の声が挙がっていたため、この抵抗運動は加速的に高まって行ったのです。

翌1979年1月、抵抗運動の高まりに恐怖を覚えたパーレビ皇帝は、政権を丸投げして家族とともにエジプト経由でアメリカへ亡命しました。これを受けてホメイニ師は15年ぶりにイランに帰国し、すぐに「イスラム革命評議会」を組織し、国民投票による98%の賛成という圧倒的な支持を受けて「イラン・イスラム共和国」の樹立に至ったのです。そして、自身が終身任期の最高指導者という国家元首に就任したのです。

この一連の流れが「イスラム革命(イラン革命)」と呼ばれるもので、行政府の長である大統領よりも、宗教指導者の権力のほうが上に来るという、極めて珍しい統治体制が誕生したのです。皇室がある日本や王室があるイギリスは「立憲君主制国家」なので、形式としての権威は天皇や国王にありますが、政治の実権を握るのは大統領や首相をトップとした政府です。しかしイランの場合は、その大統領や首相も最高指導者の管理下に置かれたのです。

ホメイニ師は「アメリカは大サタンだ!」と叫び、アメリカへ亡命したパーレビ皇帝の身柄の引き渡しを求めて、テヘランのアメリカ大使館を占拠しました。そして、52人のアメリカ人を人質として444日も拘束するという事件まで起こしたのです。このホメイニ師が作り上げた「イスラム法学者による統治」にとって、何よりも重要なのが国民全員に共通する敵でした。そのため、当時のイランには街のいたるところに「アメリカに死を!」「イスラエルを地図上から消滅させよ!」というスローガンが貼ってあったそうです。

そして、1989年にホメイニ師が86歳で没すると、現在のアリー・ハメネイ師が第2代の最高指導者に就任し、現在に至ります。ハメネイ師としては、絶対に首を縦に触れないのが「イスラム体制からの転換」であり、核開発は中東のイスラム世界で力を持つための手段でした。同じイスラム教でも、イランのハメネイ師は少数派のシーア派です。2つの聖地メッカとメジナを擁する大国サウジアラビアを頂点とする多数派のスンニ派の国々が、中東では圧倒的影響力を誇っているのです。

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「核開発を大幅に遅らせた」と言い換えて自画自賛する裸の王様

こうした背景の中で、唯一「イスラム法学者による統治」を行なっているイランが一定の影響力を持つようになるためには、憎きイスラエルに対抗できる核兵器を開発し、地図上からイスラエルを消し去り、現在イスラエルが占拠している第3の聖地エルサレムを奪い取るしかないと考えたのです。ここには預言者ムハンマドが天に昇ったと言われる「岩のドーム」があるので、ここを手に入れれば聖地を2つ持つサウジアラビアにも対抗できると考えたのです。

これが、イランが核開発を始めた理由ですから、まずは「イスラム法学者による統治」ありきなのです。そのため、HPを大きく削られてもはやベホマラーが必要な現状では、トランプ大統領の強引な停戦案は、ある意味、渡りに舟だったのです。まずは停戦して、削られた体力の回復につとめる。これが石丸フレーバーの唯一の「再生の道」なのです。しかし、すべては「イスラム法学者による統治」ありきですから、もしもトランプ大統領やネタニヤフ首相が「体制転換」に言及し始めたら、イランの態度は大きく変わるでしょう。

今回、イスラエルがイランに先制攻撃を仕掛けた直後、アメリカに亡命中の第2代パーラビ国王の長男のクロシュ・レザー・パーラビ元皇太子は「イランの軍と警察と治安部隊に訴える。今こそ体制から離反して国民に加われ」というメッセージを出しました。すべての元凶は「イスラム体制」であり、この体制を転換しなければイランに平和は訪れないという考えなのです。これはイスラエルやアメリカとの共通認識です。

しかし、トランプ大統領は「大統領という名のビジネスマン」ですから、常に「自分の得」しか考えていません。地下施設の完全破壊は無理だった。濃縮ウランも持ち出されてしまったと分かっても、予算の掛かる追加攻撃などせず「核開発を大幅に遅らせた」と言い換えて自画自賛しました。これを見れば分かるように、ここでイランに「体制転換」を突き付けて面倒なことになるよりも、一時的に「体制転換」は引っ込めておいて、まずは「停戦させた英雄」としての自分をアピールするほうが得、と考えたのでしょう。

もちろんこれは、これまで数えきれないほどのデマを垂れ流して来たトランプ大統領の「停戦合意」というSNS投稿が、安定のデマでなく、珍しくも事実だった場合の話ですが‥‥というわけで、最後にトランプ大統領に一句プレゼントして終わりたいと思います。

梅雨空に遠のくノーベル平和賞 きっこ 

(『きっこのメルマガ』2025年6月25日号より一部抜粋・文中敬称略)

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