イランの核開発を加速させた可能性も。トランプ「14発のバンカーバスター弾」は“イランの夢”を本当に打ち砕いたのか

 

中東の混乱に乗じて一気に攻勢をかけたプーチンの魂胆

イラン核合意の一角を担うフランス政府は、かつてブッシュ政権下のアメリカがイラクに対する攻撃を加えた際に安保理で立ちはだかったドミニック・ド・ヴィルパン仏外相の態度と同じく、マクロン大統領が「通告も行わず、かつ国連安保理による決議もない中で行われたアメリカ軍によるイラン攻撃は明らかな国際法違反であり、決して支持できない」と発言し、“法の支配”の遵守を謳うことで、何とかイランに核開発の加速を思いとどまらせようとしているように見えますが、残念ながら肝心のイラン政府の目はフランスではなく、交渉相手のアメリカと、イランの後ろ盾である中ロに向けられ、米・イスラエルによる攻撃で多大な被害を受けたにもかかわらず、混乱の国際情勢における台風の目としての存在感を増しているように、私には見えてきます。

イスラエルとイランが合いまみれた中東情勢の混乱に乗じて、一気に攻勢をかけたのがプーチン大統領のロシアです。

イランに対するプレゼンスを高めるためにアメリカ軍はウクライナ対応の部隊を中東に移動させたため、ウクライナ対応にあたるアメリカのプレゼンスが低下し、欧州軍は実質何も動かないことが分かっているため(ちょうどNATO首脳会議の準備もあり、アメリカをいかにNATO側に留めるかに気を遣っていたため、対ロ・ウクライナの集中力が必然的に落ちていた)、一気に苛烈な攻撃をウクライナの首都キーウに浴びせかけ、そのような中でもキーウをあけてオランダに向かったゼレンスキー大統領に対するウクライナ国民の不快感を煽る作戦を実行しました。

多くの被害と死者を出しウクライナの継戦意欲を削ぐ狙いがありますが、同時に内部からウクライナを崩壊させる機会を捉えた作戦という観点もあります。

オランダで開催されたNATO首脳会談の場でゼレンスキー大統領と会ったトランプ大統領は「パトリオット・ミサイルを含むさらなる軍備の提供の可能性」に言及し、プーチン大統領に対する圧力をかけていますが、当のプーチン大統領は全く気にしておらず、逆に「アメリカは国際法違反であることが明確な対イラン攻撃を強行したことをどう説明するつもりか」と揶揄してみたのですが、これ、聞いているとおかしくありませんか?「そもそも明らかな国際法違反を侵してウクライナに侵攻したのは誰だったのか」という点を完全にスルーしていますよね?

残念ながら米ロ間で行われているのは、完全な政治上の茶番劇で、それぞれが自国の実力をひけらかし、また力による外交を推し進めています。

以前、トランプ大統領とプーチン大統領が電話会談した際に、トランプ大統領がロシアにイラン核問題での協力を依頼する代わりに、ロシアによるウクライナへの攻勢については、しばしアメリカは静観する旨、合意されたようですが、今週行われた対イラン攻撃については、どうもロシア側は動きを掴んでいた様子で、対米非難の文言をかなり入念に丁寧に準備していたと思われます。

ロシアはイスラエルがイランを攻撃しても、アメリカがウラン濃縮施設を攻撃しても、直接的に介入できなかったとよく報じられていますが、ファルドゥの地下核施設に貯蔵されていた濃縮ウランがアメリカの攻撃前に運び出されていたと思われる中、その行き先の一つがロシアの息のかかった場所である可能性が高いとされています。

イランが濃縮に成功しているウランについては守り、かつアメリカの出先を挫くために、メドベージェフ氏に「必要とあればロシアはイランに核を提供することも可能」というあり得ない話までさせて緊張を高めています。

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