「第2の建国の父」の名誉を残すというネタニヤフの野望
ちなみに、皆さんもご存じの通り“中東地域(Middle East)”のもう一つの呼び名はWestern Asiaであり、ここもまた“アジア”の一部というのが、中国外交における共通認識となっているため、ここは“当たり前に”アジアとして中国の影響圏になくてはならないと考え、武力ではなく、経済力と技術力によって一大勢力圏を形成し、中東地域には、欧州にもアフリカにも繋がる大事な“アジアの西端”の役割を果たしてもらおうと考えているようです。
そこに楔を打ちたい、いや、ちゃんと見ているぞというメッセージを伝えたかったのが、今回のアメリカによるイラン初爆撃の別の顔という分析もできるかもしれません。
イランの核開発を数週間または数か月ほど遅らせる効果はあったかと思いますが、実際にはアメリカの爆撃はイランのあくなき核への欲望、言い換えると自国の体制保持に対する欲望を挫けさせることはなく、宿敵イスラエルが頻繁に使う正当化の理由である“自国の安全保障確保”と“イランとイラン人の生存の確保”のためには、イスラエルとの緊張関係はイランにとっては必須条件で、それを際立たせるためにはアメリカによる攻撃を受け入れることも一案と考える、こちらもまた、国民を犠牲にした(盾にした)危険な政治ゲームと言えるかもしれません。
トランプ大統領によると近日中にアメリカとイランの核問題に対する協議が開催されるようですが、どのような話し合いが行われ、イランがどのような対応を取るのかが見ものです。
一応、アメリカの攻撃とイスラエルとの停戦を受けて、アラグチ外相はしおらしい感じで話を聞くことに徹するでしょうが、あまり爆撃前とポジションは変わっておらず、主眼はいかに時間を稼ぐかに注がれているように考えます。
それはイランの核への飽くなき探求をたすけるだけでなく、同時に中ロの狙いにも貢献するという事態を作り出すのではないかと見ています。
そして恐らくトランプ大統領もそのことは薄々分かっており、国内外での成果づくりのためにイランとの緊張関係が必要で、かつ“核兵器”という世界的な危機に立ち向かうリーダーというイメージを長くキープするにはうってつけの題材と見ているように、周辺の言動をベースに判断すると、考えられます。
そしてイスラエルのネタニエフ首相は、イランとの緊張と融和を繰り返し、そこには常に危機があるというイメージづくりをし、同時に周辺国に対して軍事的な圧力をかけ、支配地域をじわりじわりと拡げることでユダヤ人国家としてのイスラエルのリーダーとしてのイメージも強め、そして自身に振りかかる一切の疑惑や訴追の危機を跳ねのけつつ、本当に中東地域における一強状態を確立して、後世に“第2の建国の父”という名誉を残こすという野望が見え隠れしてきます。
今回、イランとの停戦合意はトランプ大統領の顔を立てるための暫しの協力に過ぎず、何かしら偶発的な出来事を見つけ出して、宿敵イランのせいにしたうえで、誰も非難しない状況下で一気にイラン攻撃を強める魂胆が見えています。
次は恐らくハメネイ師の暗殺計画の実行かもしれませんが、これまでの革命防衛隊の幹部に対する攻撃とは違い、国家元首に手を出すことはイランのレッドラインを越えることに繋がりかねず、場合によっては一気に本格的なイスラエルとイランの戦争に発展し、この時、まだイランがNPT脱退というアラブのレッドラインを越えていなければ、イランにアラブ諸国が加わり、背後から中ロが絡む激しい戦いが中東地域・西アジアを襲うことになりそうです。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ









