イランの核開発を加速させた可能性も。トランプ「14発のバンカーバスター弾」は“イランの夢”を本当に打ち砕いたのか

 

「良い人ヅラ」をして着々と超大国化の道を進む中国

イスラエルとイランの戦争が本格化し、せっかく築いてきた中東および東アフリカでのロシア権益が損害を受けることは避けたいという基本的な一線は守りつつも、国際社会の目を中東に惹きつけるためにいろいろな工作を行っていると思われます。

その一つが新生シリアにおける暫定政権による国内キリスト教徒への迫害という事件です。実はこの実行犯が誰なのかはまだはっきりしていませんが、これにより、欧米、少なくとも欧州各国の目がそちらに向けられ、対ウクライナの支援に対する注意が削がれる事態が実際におきました。

新生シリアの現政権は、アサドを追い出したロシアにとっての敵であり、イスラム過激派の顔を持つ現政権をシリアから追い出すための口実と材料を作っているように見えます。

同様の狙いは中国政府にも通じるかと思われます。今回、イランの核施設を破壊するために14基のバンカーバスターを搭載したB2戦略爆撃機群が大西洋を18時間かけて飛行したのと時を同じくして、表向きはカモフラージュと言われた別のB2戦略爆撃機群が太平洋を横断してグアムに配備され、中国と北朝鮮の睨みに用いられているようです。

「何か怪しい動きをしたら、今回のイランへの攻撃と同じく、いつでも狙いに行くよ」というメッセージを北朝鮮と中国に送っているものと考えますが、アメリカとしては、かつてクリントン政権以降スタートし、オバマ政権で決定的になった“複数紛争への対応態勢の放棄”ゆえに複数の紛争をフルに対応することが出来なくなっているため、今、中東とウクライナにかかっている中、中国対応に手が回らないのが実情ですから、少なくともB2戦略爆撃機群を見せておくことで抑止力として用いているのではないかと考えます。

これは翻ると、中国へのフル対応はできていないのが現状で、来年には太平洋地域における軍事力がアメリカのそれを超えると言われている予測を実現し、絶対的な中国の覇権をアジアに築き上げるためには、アメリカの注意がウクライナやイスラエル・イランに惹きつけられていることがとても大事で好都合であることが分かります。

それもあり、国連安保理の緊急会合をよく呼びかけ、アメリカやイスラエルの蛮行を論って国際社会の目をそちらに向け、中国が進める影響力の拡大から目をそらす外交戦略に勤しんでいます。

北朝鮮にロシアの影響力が拡大していることには不安と危機感を抱いているようですが、ロシアに対してウクライナ戦での外交的・経済的、そして間接的な軍事支援の供与という餌をぶら下げて、ロシアがあまり北朝鮮に入り込み、北朝鮮が中国をスルーする事態をさけるための策は打ってあるようです。

そして何よりも、核戦力となった北朝鮮を中ロの陣営に組み込み、ロシアが北朝鮮軍をウクライナ戦の前線で実践訓練を積ませるアレンジを行い、戦力・戦術的なキャパシティを高めることで、有事の際に中ロと北朝鮮のトライアングルでアメリカとその仲間たちによる“台湾有事”に対応するための体制づくりを着々と進めているみたいです。

これを成功させるには、まだ欧米の注意力が中国に向けられては困るわけで、ゆえに中国は安保理のP5の一角という立場も上手に利用して、“いいひと”面をして着々と超大国化しようと目論んでいます。

中国はここ最近、仲介業を積極的に営み、イランとサウジアラビア王国などとの間を取り持ったり、パレスチナにおける諸勢力を結集させてUnited Palestineをつくったりしていますが、それぞれを見て分かるのは、中東地域における対イスラエル・対アメリカ・対欧州の勢力に対する対抗軸を形成して、中東地域における影響力の拡大を行っています。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print

  • イランの核開発を加速させた可能性も。トランプ「14発のバンカーバスター弾」は“イランの夢”を本当に打ち砕いたのか
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け