核保有ドミノ一歩手前まで来てしまった国際情勢の緊迫度
そうならないための最後の砦が、イランが重ね重ね検討している【NPT(核不拡散条約)からの脱退の脅し】がただのブラフで終わることです。
IAEAに対する協力を停止することを先日イラン政府は公式に通達していますが(査察など)、NPTの枠組みについては、その加盟国として振舞うことが欧州からの支援の条件であったことと、さらには中国が仲介して実現したイランとサウジアラビア王国などとの関係改善と外交関係の樹立のバックボーンこそが、イランがNPTの枠組みの中で活動すること、つまり原子力の平和利用の枠内にとどまり核兵器の開発には踏み出さないという共通認識の存在です。
もしイランがNPT脱退を決断した場合、この条件が崩れ、それはかつてのように周辺国による核武装という核軍拡の道を一気に転げ落ちることになりかねません。
恐らく豊富な資金を持つサウジアラビア王国は自国で開発せず、核保有国から(例えばロシアや中国)購入して即配備することが可能でしょうし、アラブ首長国連邦も同じ道を辿る可能性があります。
以前と唯一違うのは、対イラン警戒に加えて、対イスラエル警戒のための核保有という理由の存在でしょう。
このような核開発・核保有ドミノが起きないことを切に祈りますが、実は私たちが直面している国際情勢の緊迫度はその一歩手前のところまで来てしまっています。
そしてその命運を決めるのが【本当にアメリカがイランに投下した14発のバンカーバスターはイランの核開発の夢を打ち砕いたのか?】という“戦果”ですが、完全なる破壊を成果として訴えるトランプ大統領と政権幹部の主張とは違い、米国国防情報局(Defense Intelligence Agency)の分析ではファルドゥのウラン濃縮施設の遠心分離機はほぼ無傷で、かつ60%程度まで濃縮済みのウランはアメリカによる攻撃前に運び出され、その行方・在処は掴めていないのが現状とのことで、そうなった場合、immediate term (近日中)の核保有は遠のいたかもしれませんが、イランの核開発を狙いとは逆に加速させた可能性があります。
かつてアメリカのブッシュ政権から悪の枢軸呼ばわりされた国のうち、アメリカによる攻撃に晒されたのはイラクとイランで、すでに核兵器を保有する北朝鮮に対する米軍による攻撃が行われていないという“偶然”をもとに、イラン国内で核保有を求める声が高まる可能性は否定できないのではないかという分析がまた出始めています。
「アメリカによる攻撃はイランの核開発の可能性の芽を摘めてはいない」という分析結果が信頼できるものなのだとしたら、イランが行うだろうと考えられる戦略は【イスラエルとの停戦を受け入れる】こと以外に、参ったふりをして【アメリカとの核協議に応じて、核開発能力の回復に向けて時間稼ぎする】という、北朝鮮がこれまでに取ってきた戦略に沿った対応を取ることではないかと考えます。
イランにとって重要なのは、ウラン濃縮に関する知見と技術を維持・向上し、NPTの枠内で平和的利用のための原子力の運用を継続する姿勢を保つことですが、ここで注意しているのは、“平和利用”である限りは、どこにもウラン濃縮を禁じる条項はなく、イランは、オバマ政権下のアメリカと当時の欧州各国と合意したイラン核合意内で濃縮を低レベルに保つことにコミットしたものの、その合意はトランプ大統領によって破壊されたため、イラン政府側のロジックからすると【何一つ、イランのウラン濃縮に対する成約は存在せず、これは主権国家としての権利である】という正当化が可能になるということです。
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