7月3日に公示され、本格的な選挙戦に突入した第27回参院議員通常選挙。その試金石とも言われた6月の都議選では惨敗を喫した自民党ですが、参院選でも同じ轍を踏む事となってしまうのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』ではジャーナリストの高野孟さんが、選挙結果を占う第一のポイントとして自公の選挙協力にフォーカス。前述の都議選や昨秋に行われた衆院選の結果を踏まえ、今般の参院選への見立てと野党が取るべき戦略を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:参院選「与党50議席確保」を巡るギリギリの攻防(上)/自公選挙協力はいつまで続くのか?
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
歪み切った組織的堕落。参院選でも苦戦しそうな自公選挙協力はいつまで続くのか
参院選が始まり、自民・公明の与党合計が改選66に対して当選50を確保できるか否かを賭けた攻防が始まった。50を1つでも下回れば、非改選75と合わせても過半数125に届かず、衆院だけでなく参院でも少数与党に転落する。
今以上に辛いものになることは間違いない国会の運営
序盤段階の各紙誌の予測を比べると以下の通り。
文春が与党に厳しく、過半数を割ると見ているのに対し、他の2つは133程度で割らなくて済むと予測しているが、これはあくまで序盤の情勢で、20日の投開票日までに何が起きるかは分かったものではない。
割ればもちろん大変だが、割らなくとも僅差で、国会の運営は今以上に辛いものになることは間違いない。
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創価学会に頼り切っている自民党「組織戦略」の破綻
結果を占う上でのポイントはいくつかあり、それを今号と次号の2回に分けて論じる。
第1は、公明党=創価学会の力の衰えが思いの外、速く、それに頼り切っている自民党の組織戦略はすでに破綻しつつあるのではないか、という問題である。
都議選は公明党にとって国政選挙と同等の意味を持つ重要選挙で、それは、その前身の公明政治連盟が1963年に都議選に初挑戦して17議席を得たのを弾みとして翌年に同党を結成、たちまち自社2大政党に対する第3党として国政レベルでも存在感を持つようになったという、その生い立ちに関わっている。
当然、都議会では常に与党の立場を占めていなければならず、そのため都議選には活動家を全国動員して力を注ぐなどして、前回まで連続8回(ということは32年間)全員当選を確実にしてきた。
ところがどうだろう、6月の都議選では、創価学会本部が所在する新宿区で現職を落としたばかりか、教祖=池田大作の生まれ故郷ということもあって強力な地盤を培ってきた大田区でも2人を共倒れさせるという大失態を演じ、現職23人に対し22人を出して19人しか当選させられなかった。全体の得票数も前回の63万票から53万票に減った。
かつて2005年衆院選では898万票と、900万近い比例票を得たこともある同党が、昨秋の衆院選では596万票と、3分の2にまで勢力を減退させてしまったことが、都議選にも如実に表れたということだろう。
根底に、学会員自体の減少と残っている人たちの高齢化という(共産党と同様の)世代論に関わる組織構造の問題があり、それにさらに、公明党それ自体が自民党との癒着なしには存続し得なくなっていることへの内部からの反発という理念的アイデンティティの崩壊問題も絡むので、今の路線を続ける限りはこれに歯止めをかけることはできないだろう。
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竹中平蔵と小泉純一郎がもたらした「歪み切った組織的堕落」
他方、自民党の昔ながらの支持団体の衰えも著しく、それは小泉純一郎政権が「自民党をブッ壊す」というフェイクっぽいスローガンを呼号し、竹中平蔵という新自由主義に凝り固まった奸臣を得て郵便局長会、医師会、農協など既存のいわゆる中間団体を仮想敵に仕立てて攻撃したためで、その結果、今や自民党を支える全国的なネットワークとして最大のものは創価学会しかないという、歪み切った組織的堕落が生じた。
もし公明党=創価学会との選挙協力がなくなったら自民党はどうなるのかというのは、面白い問題で、メディアはもっと研究して書き立てたらいいのにと思うけれども、自公の一体関係は不変であるかの前提に立っていて、そのことを正面から論じることは少ない。
そこで本誌は、昨秋の衆院選結果を元に自公選挙協力がどれほどのものなのかを実体論的に考える材料として、自民党が公明党の推薦を得て選挙区で当選を果たした123の選挙区について、
- 自民党当選者
- 同得票数
- 次点者所属政党
- 同得票数
- 票差〔2.-4.〕
の一覧を作成した。
1.には、自民党当選者であっても、平沢勝栄や麻生太郎のように公明党の推薦を受けていない者は除外した。3.には、次点者の氏名は省いて所属もしくは無所属のみを記し、4.その得票数を示した。
5.の票差で、1万未満、数千レベル以下は23人で、簡単に言えば、公明党の協力がなければほぼ間違いなく落選していただろうという人たちである。票差が1万以上2万未満で、公明党の協力がなければ落ちた可能性が大きい人たちは20人である。実際には個々の選挙区事情や自公双方の取り組み姿勢の違いが様々だろうが、そこは勘案せず票差だけで機械的に振り分けた。
その基礎データは巻末に掲げるが、自公協力なしでは自民候補がほぼ確実に落選していた選挙区は次の23選挙区:北海道6、北海道12、青森1、秋田1、栃木3、群馬3、埼玉1、埼玉16、千葉3、千葉10、千葉13、東京3、東京10、東京18、神奈川10、神奈川14、神奈川17、富山1、兵庫7、岡山2、山口2、徳島2、沖縄3。この時の自民党獲得議席は191だったので、マイナス23で168が本当の実力。
その場合に数百から数千票の差で次点に付けていたのは立民19人、維新2人、無所属2人なので、その分増えて、立民167、維新40、無所属14。立民は自民とわずか1議席差で、どちらが連立の主軸になるかという競い合いとなっただろう。
さらに票差1万代の20人からも5人や10人の落選者が出るだろうし、自民票が回ってこなければ落ちる公明党候補者もいるはずだから、自民党が第2党に転落し政権を失っていた公算は大きい。
これは衆院選の結果で、もちろんそのまま参院選に移し替えられる数字ではないが、自公政権の実体構造を窺い知る一助にはなる。
野党側から見れば、自公の間に楔を打ち込むことが自民党権力に止めを刺す早道だということである。また公明党からすると、どこで見切りを付ければ自民党と抱き合い心中しなくて済むかという生死に関わる判断が迫られつつあるということである。
公明党の協力がなければ「ほぼ確実に落選」していた自民党議員
(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年7月7号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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