米国在住作家の冷泉彰彦氏が、ユニークな切り口で解説する就職氷河期論の第2弾。前回の記事では、与党や野党が突然「氷河期世代支援」を叫び始めたのは、次の「大票田」として彼らの票を狙っているためと分析した。ただ、国会議員たちが氷河期世代を“今さら助けたい”理由は他にもある。ただの選挙対策ではない、人を人として扱わない恐るべき狙いがそこにはあるようだ。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:なぜ、今になって氷河期救済なのか?
まるで今日気づいたかのように。「氷河期世代支援」の欺瞞的構造
ここへ来て「氷河期世代の救済論」が語られるようになってきました。
具体的には、公務員などに正規雇用するとか、民間でも正規雇用できるように補助金を出す、といった話です。
理由は非常に簡単で、このまま非正規だけ、あるいは請負だけのキャリアの人が分厚い層となったまま、年金受給世代に突入しては困るからです。
どうしてかというと、年金受給額が極めて少額となり、そうなると生存のために生活保護に頼る人が激増することになります。
その場合に、生活保護で手厚く救済すると、各地方公共団体の財政は破綻するし、上の世代との比較で不公平感が出るでしょう。
ですから、少なくともある程度の額は厚生年金の枠組みから受給ができ、また自分なりの貯蓄もあるようにしておきたいのです。
氷河期世代が、今のまま非常に少ない年金受給額で、あるいは貯蓄が細いままで引退年齢に向かうのは、国としては避けたいのだと思います。
なぜ今まで、氷河期世代を放置してきたのか?
しかし、そこで突き当たるのが、「それならばなぜ、今までは放置してきたのか?」という疑問です。
氷河期世代が前後の世代と比べて、年金受給額から見ても、あるいは貯蓄の面で見ても著しく脆弱だということは、前から分かっていたはずです。
だったら、なぜもっと以前に救済しなかったのか?これは極めて自然な疑問だと思います。
その答えですが、2つの要素があると思います。
1つは、若いときから非正規や請負で苦労してきた人ほど、自分の身を守るために、「労働者の権利」という概念をしっかり理解しているし、追い詰められた時には、きちんと主張もするという点が挙げられます。
そして、このように「労働者の権利」を重視する考え方は、平成期には民間でも官公庁でも「嫌われ」てきたという歴史がまずあります。(次ページに続く)
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氷河期世代をあえて見殺しにした「正規雇用集団」の本音
正規雇用は幹部候補生であり、ならば将来の出世を人質に取られ滅私奉公をさせられても我慢するし、組織防衛のためには脱法行為も厭わない。そんな時代が長く続きました。
そのような環境に身を置く「正規雇用集団」の階層から見ると、非正規経験者というのは危険な異分子でしかなかったでしょう。当時、彼らを正規雇用するという発想はありませんでした。
実のところ、日本を衰退にまで追い詰めたのは、そのような「正規雇用集団」だったのですが、そんなことはお構いなしだったのでした。
2つ目は、氷河期世代はすでに50代に差し掛かり、男女ともに、これから家庭を形成したり子どもを育てる年齢を越してしまっている、という点が挙げられます。今のタイミングなら異分子を正規雇用しても「安全」というわけです。
氷河期世代を30代ぐらいまでに正規雇用してしまったら、企業や官庁は家族を養う有形無形のコストまで負担しなくてはなりません。だからこそ、当時の「正規雇用集団」は、氷河期世代を正規雇用するなど問題外という態度を取り、今さらになって対策を始めているのです。
氷河期世代は「団塊2世」という人口の塊にあたります。その2世の彼らが「団塊3世」の分厚い人口を日本で形成できなかったのは、前述のような企業や官庁の責任ということになります。
そう考えると、あらためてこの40年にわたる失われた時間の重さ、その間にまったく正しい判断のできなかった日本経済の暗黒の歴史について、絶望の思いを強くするのです。
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