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「ご褒美としての昇進」がオワコン化。「過去の成功体験」が“権威の源泉”だとカン違いする管理職は有害でしかない

バブル崩壊後のいわゆる「失われた30年」を経た今となっても、一向に再興の兆しが見られない日本経済。このままでは「失われた期間」が40年、50年と延び続けてしまうことは確実と言っても過言ではありません。何がここまでの事態を引き起こしてしまったのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では作家で米国在住の冷泉さんが、日本企業に連綿と続く「ご褒美としての昇進」という制度を問題視。その継続が「日本経済の超長期間にわたる衰退の大きな要因」との見方を記しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:管理職への「昇進」というオワコン

いつまで経ってもガラパゴス。管理職への「昇進」というオワコン

最近多く目にするようになったのが、「管理職は『罰ゲーム』」というような報道です。管理職に昇進してしまうと、上司と部下の間で板挟みになるとか、部下の仕事をバックアップした結果として、労働時間が長くなるなど、「ロクなことはない」という認識です。

例えば、数年前までは「女性が管理職になりたがらない」という指摘がされていたこともあります。ですが、現在では性別関係なく、また子育て中かどうかなどということも関係なく、幅広く「管理職は罰ゲーム」という認識が広がっているようです。

一方で、「孤独な」管理職に対して、社外メンターからアドバイスをさせるという動きもあります。例えば実際のコンサルや他社の経営者が「上司の代行」として、管理職としての動き方のコーチングを受けるというのです。

多くの場合は、個々人が勝手にやっているのではなく、企業として正式に契約して「外部コーチ」に指導してもらうのだそうです。

どうしてかというと、働き方や価値観が多様化する中では、伝統企業ではで長年引き継がれてきたやり方だけでは対応できなくなったからだそうです。人に対する価値観や、コミュニケーションの方法論など、とにかく最新のものを「外部」から入れないと、若手を回していくことができないというのです。

こうした動きですが、一つのことを示していると思います。それは「過去の実績を評価して昇進」という発想法、いやもっと推し進めて「ご褒美としての昇進」という考え方が、オワコンになっているということです。

そうではなくて、管理監督とか、経営というポジションはその職責を遂行するための「専門スキル」を身に着けた人を充てる、という考え方に移行すべきなのです。といいますか、グローバルな国際労働市場では、これがもう当たり前になっています。

勿論、同時に「新卒一括採用、年功序列、終身雇用」というのもオワコンになっているわけです。もっと言えば、メンバーシップ採用も、もう終了しても良いのだと思います。

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今こそ財界とまともな大学が連携し立ち上げるべきシステム

仕事は専門スキルを持った人がそのスキルを活かす場所です。そして、専門スキルの中にはエンジニアとか、経理、法務などがあるように、品質管理とか進捗管理という分野があるのです。

例えば、営業チームには営業におけるリーダーシップという専門スキルを持った人物が責任者として配置されるべきです。それはクライアントとのコミュニケーションや、業界全体の理解、個々人の個性の把握と適切なアドバイス力、そして上位の経営層へのプレゼン力や、製造部門との交渉力などのスキルで構成されます。

そこには過去の営業成績が反映する部分は極めて限られています。そして、時代の変化に応じて対面営業からデータ中心のオンライン営業へ、説得営業からニーズ把握営業へと変化しているのであれば、過去の成功体験はむしろ邪魔になります。

更に言えば、経営トップもそうです。経営トップを外部から招聘すると言うと、いわゆる一過性のリストラや、テコ入れを派手なパフォーマンスでやろうとする「プロ経営者」のようなイメージがあります。ですが、そうした一過性の対応ではなく、一般論として「2025年の現在において激しく変わる内外環境の中で」その会社に最善の判断を下し続ける人材というのは、「その会社の過去を知る」人物ではありません。

まして「過去の全く環境の異なる状況での成功体験」だけが、自分の権威や権力の源泉だと勘違いしているような人物は間違いなく、その会社にとって有害です。今は、そのような時代なのです。

管理職や経営者は「ご褒美」として昇進させるポジションではありません。また、「過去の成功体験」は現在から未来における経営や管理スキルを保障するものでは「全くない」のです。

だからといって、現場も技術も知らない教授たちが粗製乱造するようなMBAなどが横行するのも困ります。いまこそ、財界とまともな大学が連携して、即戦力になるようなMBA(経営学修士)のコースなり、その簡易版をしっかり立ち上げて、有能な管理スキル、経営スキルをもった人材を育成する必要があると思います。

バブル崩壊以降の35年にわたって、日本経済が超長期間の衰退を続けたのには、この「経営者、管理者」に不適切な人材を充て続けた失敗も大きな要因だったと思います。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2025年7月15日号「管理職への『昇進』というオワコン」の抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。今週のメインコンテンツ「日本の安全保障の『かたち』を考える」や人気連載「フラッシュバック80」、読者Q&Aコーナー(任天堂エコノミーについて)もすぐに読めます。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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