あらゆる公約が未解決のままで方向性を見失ったトランプ外交
また極右の筆頭ベングビール文化大臣は、最近、ネタニエフ首相が、国際的な圧力とトランプ大統領からの「ガザの人々が飢えていないというネタニエフのウソは信用しない」と発言し、即時に人道支援を強化するように命じたことを受けて行ったガザ地区への支援物資の空中投下や人道回廊の設置などに合意したことを激しく非難し、「これ以上の屈辱的な譲歩を行う場合には連立を離脱し、ネタニエフ首相を退陣に追い込む」と息巻いているため、ネタニエフ首相としてはこれ以上の軟化は不可能と思われ、ベングビール氏が推し進めるガザ全域とヨルダン川西岸地域のイスラエルへの編入とパレスチナ人の追放という、非常に危険な方向に進む可能性がまた高くなってきているように感じます。
さらに、イスラエルがシリアやレバノンに対しても、いろいろな理由をつけて攻撃を止めないことや、イランに対してサプライズ攻撃を仕掛け、執拗に核施設のみならず、政府機関や公共の施設などに攻撃を加えたことに対して、欧州各国は、国内からの強い非難を受けて、イスラエルを非難せざるを得ず、建前として「法による支配」の重要性や「武力によらない外交による紛争解決」の重要性を訴える手前、経済的な措置を含む非軍事的な手法を駆使してイスラエルに圧力を加え、イスラエルの後ろ盾となっているアメリカ政府、特にトランプ大統領に対して「これ以上、欧州はアメリカとは行動を共にできない」旨、伝えています。
このメルマガが皆さんのお手元に届くころ、国連安全保障理事会では「パレスチナの国家承認」について議論し、審査する緊急理事会が開かれていることと思いますが、その際、アメリカ政府はVeto(拒否権)を投じて反対の意を示すのか、それともAbstention(危険)して、反対はしつつもイスラエルに対する“怒り”を示すのか、とても見ものです。
現在、アメリカの外交フロントと言えば、トランプ関税を巡る各国との最終的なやり取りが真っ先に思い浮かぶかと思いますが、ロシア・ウクライナ戦争や中東危機の仲介および停戦といった、就任前から掲げる公約案件が未解決のまま、方向性を見いだせずにいます。
ロシア・ウクライナ戦争については、当初、プーチン大統領との個人的なつながりを重んじ、かつバイデン政権の方針を覆すために、誰の目から見てもロシア贔屓の内容をウクライナに押し付けようとしていましたが、プーチン大統領が一向に停戦のための真剣な話し合いに応じず、トルコの仲介でロシアとウクライナの直接協議を始めることに貢献したものの、ロシアもウクライナも相互に対する攻撃を止めず、ロシアはウクライナ全土への大規模攻撃を加えて、首都キーウをはじめ各都市に多大な被害を与えていることを受け、トランプ大統領はNATOに接近し、プーチン大統領に圧力を加えるべく、ウクライナが切望するパトリオットミサイルの追加供与を、NATOを経由する形ではあっても、約束するというスタンスを取りました。
ウクライナ軍もAI搭載の無人ドローン兵器などを大量投入してロシア国内のターゲットのみならず、ロシアの艦船の破壊を繰り返してロシアに損害は与えていますが、すでに戦死者が100万人に届きそうなほど犠牲を出しているにも関わらず、ロシアは一向に、ウクライナからの攻撃の激化も、トランプ大統領からの圧力・脅しも意に介さず、ウクライナへの攻撃を強めるのみならず、先週号でもお話ししたとおり、アゼルバイジャンとの対峙にも対応しようとしています(つまりまだ余剰戦力があるということを示しています)。
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