何一つ結果を出せないトランプ外交の八方塞がり。首を突っ込んだすべての戦争を“激化させて長引かせる”有り様

 

中国、トルコ、ロシアに接近する中東のアラブ諸国

ただイスラエルがガザおよびヨルダン川西岸地域の壊滅までも視野に入れ、これまで国際社会が描いてきた二国家解決のプロセスが不可能であることが明確になるにつれ、「諸々の和平条件の詳細に合意してから最後に国家承認する」というシナリオが崩れ、「まず国家承認し、イスラエルとパレスチナをequal standingにしたうえで(対等の立場に置いたうえで)諸々の共存条件を協議し合意する」シナリオに転換する方向に、欧州各国が舵を切りだしたと言えます。

恐らく近くイタリアも、レバノン絡みでイスラエルと対峙していることもあり、その輪に加わることになると思われますが、ドイツについては、ナチスドイツによるホロコーストを受けて対イスラエルでは非常に慎重なかじ取りをするため、期待できないのではないかと踏んでいます(それでもメルツ首相はもしかしたら大きな政策転換を行うかもしれません)。

G7の足並みが揃わなくなったことが鮮明になったわけですが、これで逆にイスラエルに対するG7の抑止力が削がれ、今後、中東地域の一強となったイスラエルが、その軍事力と経済力をベースに、これまで隠してきた野心を一気に爆発させるのではないかと、周辺のアラブ諸国が警戒を高めています。

そこで中東のアラブ諸国が接近するのが中国であり、トルコであり、そしてロシアであることは先週号でも触れました。

【関連】習近平「デジタル監視力」とプーチン「秘密工作」の絶妙なコンビネーション。中露が混乱極まる国際社会で推し進める“裏工作”の標的は?

ロシアのプーチン大統領はネタニエフ首相に電話し、首脳会談において「シリアの主権を尊重すべきであり、イスラエルによる一方的なシリアへの武力行使は看過できない」と伝えて、新生シリア(ロシアがこれまで支援してきたアサド政権とは敵)の側に付くことを明示していますし、中国は中東各国に特使を派遣して協議を重ね、表立っては先頭に立たないものの、アラブ諸国の対イスラエル包囲網を背後から支え、必要となる軍事支援と経済支援、技術的な支援を与える動きに出て居ます。

そして大のイスラエル嫌いを自称するエルドアン大統領は明確にイスラエルへの対決姿勢を強め、欧州を巻き込んでイスラエルに匹敵する空軍力と総合的な防空網を近々構築することで、新たな力の均衡を築くことになります。

広域中東地域において中ロを軸としたアラブ諸国の囲い込みが鮮明になるにつれ、トランプ大統領のイライラが募り、ロシアおよび中国に直接的に圧力をかけようとしていますが、その手法がどちらも軍事的なコンポーネントを含まず、関税の一辺倒ですので、現時点では全く効果がありません。

中国は3度目の関税協議をアメリカと行っていますが、軍事的なお話しとは完全に切り離し、ピュアに経済的な・通商に関わる協議に絞っていますし、ロシアは一方的に関税措置をかけられることを宣言されていますが、完全にスルーして相手にしていません。

トランプ大統領としてはいち早く成果を得たい事と、ウクライナと中東の2面において何らかの形での停戦を引き出すべく、中ロに8月を期限とした合意を要求していますが、今のところ反応がないのが現実と言えます(中国は次回の関税協議の予定は未定として、アメリカの思惑を挫いています)。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print

  • 何一つ結果を出せないトランプ外交の八方塞がり。首を突っ込んだすべての戦争を“激化させて長引かせる”有り様
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け