失敗に終わったトランプの「ウクライナ戦争停戦」の試み
そのような状況を受け、トランプ氏は「ロシアは改心しない」と、当初9月2日まで猶予するとしていた対ロ100%関税とロシア支援国に対する二次関税の猶予を大きく前倒しして8月8日として、プーチン大統領に停戦に向けた具体的な行動をとるように求めていますが、これについても現時点ではロシアからの反応はありません。(カムチャツカ沖の大地震への対応でそれどころではないのかもしれませんが)。
対ロ制裁はすでに、グローバルサウス諸国を中心とした対ロ協力であまり効力がなくなっていますし、今回の2次関税の脅しについても、アメリカを外すための体制が構築されているようで、ロシアが意に介していないだけでなく、その直接的なターゲットになる中国やインド、ブラジルなども、トランプ大統領からの脅しを気にしていないようです。
とはいえ、米中間の第3回関税協議の場で中国の何氏から「ここで相互関税について話し合っている傍で、中国をターゲットにするような2次関税を議論するとは何事か」と不満が述べられ、関税交渉そのものも不発に終わったと聞いていますので、中国はそれなりには意識しているように見えます。
これまでのところ、ロシアとウクライナの直接協議を再開させることに貢献したというプラスはあるものの、アメリカによるロシアとウクライナ戦争の停戦に向けた試みは失敗に終わり、逆に戦争を激化させ、長引かせたように見えます。
では中東危機に対する仲介はどうでしょうか?こちらも八方塞がりと言えるでしょう。
仲介すると言ったものの、カタールやエジプトとは違い、あからさまにイスラエル寄りの立場を取り、イスラエルの行動を正当化するだけでなく、さらに増幅させているのが現実です。
特使に選んだウィトコフ氏もトランプ大統領ばりにイスラエル寄りの発言を繰り返し、「うまくいかないのはハマスのせいだ」と公言してしまうので、調停や仲介の任には向きません(それをネタニエフ首相もよく分かって利用していますし、ロシアのプーチン大統領も同じです)。
イスラエル軍の行き過ぎた攻撃に対してはトランプ大統領も非難するものの、対プーチン大統領と同じく非難と行動を徹底できていないため、ネタニエフ首相に付け込まれて利用されているように見えてきます。
一応、間接交渉とはいえ、ハマスとイスラエルの協議をsettingしつづけているのは評価できるところもありますが、今週に入り、ウィトコフ氏をはじめとする仲介チームをカタールから引き揚げさせて協議から距離を置かせたことに対しては、大きな懸念を抱きます。
そして今週、トランプ大統領はあからさまに「我慢の限界が来た。ハマスが話す気がないのであれば、ハマスを一掃するしかない」とイスラエルの残忍かつ圧倒的な武力行使を容認し、ゴーサインを出すようなイメージを与えてしまいました。
これを受けて「アメリカは頼りにならない」と踏んだのか、フランス、英国、カナダが相次いでアメリカと距離を置き、パレスチナを国家承認する旨、表明することになったのだと考えます。
ただこの「パレスチナを国家承認する」というのは、実は国連ではもう珍しいことではなく、確か現時点で171か国がパレスチナを国家承認しており、日本を含むG7諸国がマイノリティーで、G7内でも温度差があり、これまで国家承認を見送ってきたのは、“イスラエルを巡る複雑で困難極まる和平プロセスの最終局面でこそ使うべき重要かつ最後の外交カード”と見なしてきたことがあります。
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