経済を知らない野党のタワゴト。「企業の内部保留を吐き出せ」が無理筋である根本的な理由

 

一種の均衡点だった「ドル円の120円」という水準

それはともかく、では通貨の円はどんどん下がったのかというと、そうではありませんでした。理由としては3つぐらいがあると思います。1つは、世界各国の財政や景気も浮き沈みが激しく、特に財政は米国やEU諸国も悪化の一途だったので、それとの比較で日本円の評価が上がったのです。特に、鳩山政権など民主党政権の時代は、リーマンショック直後だったのでショックの直接的影響が少ないとされた円は買われました。

2つ目は、一種の神話ですが、日本の場合はどんなに政府の債務が巨大、つまりGDPの200%超えという先進国最悪の水準でも、その借金全額を日本の個人金融資産が引き受けていたからです。ですから、日本という国としての債務はチャラなので、円という通貨も大丈夫という信用が出来上がっていました。

3つ目は、なんだかんだ言って円売りドル買いの流れが今ほどではなかったのです。例えば、トヨタなどは80年代後半からは輸出自主規制の対象となって、北米への完成車輸出が制限されました。同時に、徐々に現地生産も開始していました。ですが、2010年ごろまでは「レクサスの品質はケンタッキーでは無理」なので、どうしても田原工場(または九州)で作るとしていました。

台数の制限を受ける分は、日本国内で作って出す、その場合には日本国内で作るのは高額な高付加価値車を中心にする、ということをやっていました。ですから、ジャンジャン国外に投資をするというのでもなかったのです。また、リーマンショックの衝撃が大きかったので、純粋投資目的でドルを買って国外に投資するということも控えられていました。

ですから、第二次安倍政権が登場した2012年末の時点では、1ドル80円前後という円高で推移していたのでした。当時の安倍総理は、ここに目をつけました。この円高を是正するために、当時の黒田日銀総裁は流動性供給を無制限に行い、日銀による国債購入を進めました。そのようにして、2020年までの8年間でドル円を120円前後まで下げることに成功したのでした。

たぶん、この120円というのが、一種の均衡点だったのだと思われます。ちなみに、当時はちょうど原油安の時代であり、最も重要なエネルギーという輸入品について、円安に振っても、価格が下がって相殺されるというラッキーにも恵まれました。

問題はこの2020年以降の情勢の転換です。いろいろな要素が絡んでいるので、実際の為替レートを形成しているメカニズムについては、明確にはわかりません。ですが、現在の日本経済、そして日本円の置かれている位置ということでは、以下のような指摘ができると思います。そして、この円安という現象は、簡単には動かせないし、この先の道のりもよく見えない、一種の袋小路に追い詰められたような状況と言えます。

1つ目は、大企業の動向です。円安になると、輸出産業がダイレクトに売上利益でメリットを享受し、それが国内GDPに反映し、実際にキャッシュとなって国内を潤すということは、現在では極めて限定的です。にもかかわらず、大企業が円安を望むのは「海外で稼いだ利益を円に倒すと膨張して見える」からです。

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