円高になれば雲散霧消してしまうインバウンド
3つ目はエネルギー政策です。2011年以降、とにかく原子力発電は世論の逆風にさらされています。ですが、原発の再稼働や更新を進めずに、化石に燃料に頼れば、国際収支を傷つけて通貨は円安に振れます。その結果として、対外収支は悪化し、更に円は下がります。仮に、ここでウクライナ戦争が集結して、原油が下がれば話は別ですが、そう簡単には進まないでしょう。
ということは、日本は苦しくても石油を高値で買い続け、円を流出させなくてはならないことになります。
4つ目は観光産業の問題です。インバウンド旅行客の消費は、ダイレクトにGDPに反映し、実際に巨大なスケールで国内の雇用を支えています。ですから一見すると、国内需要のように見えますが、その正体は外需です。円安だから彼らの購買力は膨張し、旺盛な消費に結びついていますが、円高になればそれは雲散霧消します。
この構造がある限り、そして多くの地域がこのビジネスモデルに依存している中では、簡単には円高に振ることはできません。観光運輸業界全体がコロナ禍の負の遺産を背負っている中で、インバウンド需要が一気に縮小する円高は許容できないわけです。
5つ目の問題は、対日投資の観点です。日本株は、ここ数十年にわたってドル建てあるいは人民元建てのキャッシュによって買われてきました。また、近年は中国資本が国内ポートフォリオの脆弱性を補うために日本の不動産を資産化する動きが拡大しています。こうした株や不動産に関する対日投資については、一つの前提があると考えています。
それは、日本経済が崩壊する前の一瞬の輝きとしての「最後の円高」に賭けているという側面です。いやいや、ドル資金も人民元資金も、円安なのにどんどん日本を買いに来ているではないか、実際の現象面ではそういうことになっています。円安なので買えるし、更に円安になれば更に買える…そんな投資行動が23区内のタワマンをバブル化し、日本株に対して買い向かっています。
ですが、そうしたマネーは日本への恒久投資を考えているのかと言うと、決してそんなことはありません。確かに人民元マネーは、自国の不動産の資産価値が激しく動揺しているので、ポートフォリオの健全性を濃くするために日本に投資している側面はあります。そうではあるのですが、彼らにしても日本経済や日本円が長期的に見て買いだとは思っていないと思います。
米中いずれの投資家も、対日投資の妙味は「二重ボラ」、つまり、株や不動産のボラ(価格変動の激しさ)に、通貨のボラが重なることで、ハイリスクだけれどもハイリターンの投資という理解で突っ込んできているのです。
何が言いたいのかというと、仮に「日本経済最後の輝き」としての円高が起きるとしたら、その前後で一気に対日投資のマネーは引き上げていく可能性があると思います。株の方は、実際に日本の優良株はドル資産、グローバル市場にリンクしているので、叩き売られたりはしない可能性はありますが、少なくとも利食いの売りは相当に来るでしょう。一方で、不動産の場合は、叩き売りになる可能性はあると思います。
問題は、現在このような諸要素によって、簡単には動きが取れなくなっている円という通貨が、この先どうなるかですが、多分、いちばん重要なのは次のような問題だと思います。
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