「企業の内部留保を吐き出せ」と叫ぶ野党の経済オンチ
多くの企業が生産拠点を海外に移し、更には海外の企業を買収し、また資産の多くをドル建て投資に回しています。そんな中では、円安はそのまま円建て業績の拡大になるわけです。こんなに国内が貧しくなっているのに、多国籍企業だけは、初任給が30万円とか、初任給として年収500万を提示、あるいは30歳で1,000万などと景気のいい話をしています。
実際に、この夏にハワイへ行く日本人は相変わらずいますし、国内の旅館などが一泊2名で10万クラスの値付けをしている中には、外需だけでなく確実に内需もあります。そして、以前とは違い、リッチな高齢者に加えて、リッチな30代も出てきています。これは、その層がグローバル経済にリンクしており、ドル建ての業績を背景に、膨張した円建て給与を得ているからです。
この状況は各企業にとっては、反転させることはできません。例えばですが、経済を知らない野党などが「企業の内部留保を吐き出せ」などと言っていますが、これはできません。企業の内部留保、つまり積み上がった利益の山というのは、その多くが海外投資に回っているからです。
具体的には、工場や研究所などの設備投資、提携先や隣接業種などの買収といった形で投資されています。現在の会計制度は、かなりリアルな価値評価になっていますから、仮に大きく円高に振れますと、海外の資産は縮小するので、その年度の利益は吹っ飛びます。
実際には、日本の優良な多国籍企業というのは、ドルの世界で生きています。ですから、ドルから見るとドル建て資産というのは、円高になっても変わりません。一方で、ドルから見た日本国内のオペレーションや資産評価は、円高になると拡大して見えるわけです。
そうはいっても、日本の市場は縮小途上なので、多国籍企業としての優先順位は大したことはないと思います。ですが、仮に日本に本社があった場合に、この先にもしも円高になった場合には、DXが進まず、リストラもできない中で非効率となった日本の間接部門は、ドル建てコストが増大して、大きな問題になる可能性はあると思います。
いずれにしても、現在の日本企業、特に日本発の多国籍企業の場合は、この水準の円安を前提に経営をしているわけですから、極端な円高、例えば120円以上というのは耐えられないと思われます。
2つ目は、金利の問題です。今現在の円を取り巻く金利の動向としては、日本は相変わらずの低金利で、アメリカはかなり金利が高いものの、トランプ政権は金利下げの圧力を加えています。どうしてアメリカの金利が高いのかというと、景気が加熱しているからです。コロナ禍では知的産業がビクともしなかった中で、コロナ禍では政府がカネをばらまいたことで、市中にカネが余って景気が加熱しているのです。
そこで、日米に金利差があるので円安が続いているという説明がされています。また、日本は金利を大幅に上げないことで「円安を維持している」格好となっています。仮に、円安が行き過ぎて困るという場合には、金利を上げて日米の金利差を縮めて円を高くするという操作が可能は可能でしょう。
ですが、日銀が政策金利を上げれば、国債の金利も上げざるを得ず、そうなると天文学的な利払いが生じます。仮にそうなれば、利払いの激増で国家債務は拡大、そうすると通貨への信認が揺らいで、金利高の中の円安、という破綻国家的なハイパーインフレの構図に突っ込んでしまいます。
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