全国的に「保守票」が保守系野党に流れた根本的な理由
例えば今回、どうして全国的に「保守票」が保守系野党に流れたのかというと、その根本の部分には組織の弱さということがあると思います。
例えばですが、安倍晋三氏の「桜を見る会事件」や、小渕優子氏の「ドリル優子事件」がいい例です。仮に安倍氏や小渕氏の「選挙の強さ」というのがホンモノなら、有権者が「安いカネで桜を見る会に招待しろ」とか「貸切バスでの芝居見物に招待しろ」といった「タカリ=収賄」行動に走り、それに屈するということはなかったと思います。
では、どうしてそんなに組織力が弱くなったのかというと、インフラを中心としたバラマキは既にほぼ完了しており、更に新規は財源難で難しいからです。また補助金行政も、ネット世論などの目が光っているので困難です。その一方で、地方名望家の保守イデオロギーというのも、実態はそんなに信念があるわけでもないのです。
安倍氏の場合に、総理として頑張っている人を、自分の選挙区から送り出しているだけで満足できないというのが、そもそも奇妙です。また、安倍氏が、その人気を逆手に取って、ゴリゴリの保守が反対しそうな「日韓合意」「譲位改元」「相互献花外交」などをやっても、あまり反対しなかったというのは、保守理念がホンモノではなく、単にリベラル野党を「やっつけるのが快感」という域を出なかったのだと思います。
考えてみれば、安倍氏の「桜」問題というのは、実は清和会全体の裏金問題の典型だったと考えることもできます。地方の各選挙区では、どうしてもこの種の支持者による「タカリ構造」があるし、そこに資金を入れないと当選できない、だから次期リーダーを目指す議員は派閥内の派閥を強化するにはカネをばらまくしかない、そういった構図です。
今回の参院選で彼らの多くが苦戦したのは、勿論、これ以上のバラマキができないということもありますが、裏金スキャンダルが暴露されたために、本当に裏金が回ってこなかったからなのかもしれません。地方の保守票までが安易に保守野党に変節した背景にはそうした問題もあるように思います。
もっと言えば、都市の保守野党人気は一種のネトウヨ的な右のポピュリズムの体現だったのだと思いますが、地方の保守票まで動いたのは、カネの切れ目が縁の切れ目的なおかしな構図があったのかもしれません。仮にそうした「腐敗しているのは有権者」という構造があるのなら、そのような風土を持つ選挙区は衰退しても仕方がないとも言えます。
自民党は都市部でも苦戦しましたが、1つの要因としては組織票の縮小ということが大きいと思います。保守系の商工団体は青息吐息で、彼らにバラまく補助金の財源もないのでケアができなくなっています。
大きな要素としては、団塊世代までは巨大な基礎票を形成していた宗教票がどんどん「溶解」しているのだと思います。組織力の強い宗教は、現在の現役世代には全くもって「コスパが話にならない」中では組織力が衰退、それが自公の集票力低下につながっています。
組織票と言えば、前世紀までは企業の組織票がありましたが、これも完全に時代錯誤ということになりました。
というわけで、自公政権の基礎票というのが、かなり深いところで溶解しているわけです。これに、米政策の迷走による消費者と生産者双方の不満感、そして物価高への不満、長期間の経済低迷の責任論などが大きく重なって今回の結果になったと考えられます。
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