全体的に見て事実上「崩壊寸前」の日本の政治風土
面白いのは、この主張は参政党の「アトキンソンは国賊」という主張とピッタリ重なるのです。デビット・アトキンソン氏は、菅義偉政権の求めに応じて、中小企業の合従連衡による規模の拡大と生産性向上を進言しています。これは、実は日本経済が真の競争力を取り戻すには正当な政策なのですが、右の参政党と、左のれいわが一斉に反発しているのは興味深いです。
つまり、オーナーは一人だけ公私混同でチマチマした社長ライフを満喫、残りの労働者はヘトヘトという構図を、「古き良き中小企業の活力」と勘違いしているのです。参政党の場合は、そのような地方のオーナーから政治献金を期待しているという「だけ」かもしれません。後は、れいわの場合は、反原発はまあ彼らの「看板政策」ということなのでしょうが、行政のデジタル化も、自動運転車も、スマートシティも「新しいものには反対」という姿勢です。
ですから、ある意味では真の守旧派、保守派といってもいいわけで、ある程度この社会の成り立ちを理解している人、いや、一定の世代以下の人々には見向きもされないことになります。
ということで、自公連立与党はガタガタ、保守野党は「野党ビジネス」にアグラ、左派政党は富裕層向けだったり非現実の世界に没入、というわけで、全体的に見て日本の政治風土は事実上崩壊寸前ということが言えます。
そんな政治風土を象徴しているのが、8月24日に共同通信が配信した同社の世論調査結果です。23、24の両日、全国で電話世論調査を行ったものですが、自民党が参院選で敗北した責任を取り、石破茂首相が「辞任するべき」との回答は40.0%で、前回の7月の調査から11.6%減少し、「辞任は必要なし」57.5%の方が多くなったというのです。
つまり石破氏の辞任は必要ないという数字が、過半数、それも57%超えという数字になっているのですが、問題は支持率です。この57.5%というのは「辞めなくてもいい」数字であって、支持率ではない、ここがミソです。
では、支持率はどうかというと、35.4%しかありません。前回の7月の数字からは12.5ポイント上昇していますが、不支持は49.8%で依然として支持を上回っています。
では、自民の次の総裁にふさわしい人物を聞いたところ、高市早苗氏が24.5%でトップ。2位は小泉進次郎氏で20.1%、石破首相は3位で13.1%だそうです。よく考えると意味不明なのですが、世論の心理としては、
- 石破氏が辞任せず、次回の総裁選でも続投:13.1%
- とりあえず石破支持:35.4%
- 当面は石破の辞任は必要ない:57.5%
ということで、かなり微妙に数字が異なっています。つまり、現在の政策が正しいとは思わないし、石破氏のリーダーシップが数年続くのには87%近い人が反対しているが、現在の「石破おろし」は42.5%しか支持はないというわけです。
この数字のバラツキですが、そこにどういうニュアンスがあるのかは、非常に難しい解釈になります。
「声高に石破おろしを叫ぶ人は、裏金議員などなのでイヤ」
「対米交渉があるので、当面の交代はない」
「でも、現在の日本の状態は全く満足できないので、代わって欲しい」
「正規の任期を全うして規定通り総裁選をやるべき」
「自分が自分がという人は嫌い」
というようなニュアンスは何となく感じられます。では、こうした矛盾したような曖昧な感情をもっている世論は未成熟なのかというと、決してそうではないと思います。問題は「実行可能な範囲内の複数の選択肢」として、国の方向性が整理されて、それぞれの政党が責任ある「政権担当公約」として有権者に提示されるということが全く不十分だと言うことです。
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