トランプを都合よく利用するプーチンとネタニヤフ。曖昧な姿勢で「無力な市民の殺害」に手を貸す“堕ちた国アメリカ”

 

親イスラエル一辺倒のアメリカとの決別も模索し始めた英仏

そこにイスラエルによるガザ地区への本格侵攻と攻撃の激化の報が入り、アラブ諸国とイスラム協力機構(イラン含む)の怒りの矛先は、イスラエルを止めることができないアメリカに対しても向けられることとなりました。

地域最大の米空軍基地を擁するカタールは非常に難しい立ち位置に置かれることになりましたが、今回の会合では、アメリカとの同盟関係の保持よりも、微妙な距離感を保ってきたサウジアラビア王国などアラブの国々との連帯を重視し、対米関係の見直しも含む、かなり厳格な対応を考え始めた模様です。

そしてイスラエルには怒り心頭で、今回のガザ侵攻を受けて、ムハンマド首相は「攻撃は残された人質の解放の希望を潰してしまった。ネタニエフ首相こそ正義の裁きを受けなくてはならない」と公言し、「地域の安定化のために仲介の労を担うカタールに対し、イランとの確執やハマスとの確執を理由に攻撃を加えるのは、カタールを馬鹿にしているとしか思えない」と激しく非難しています。

アラブ諸国もカタールの怒りに同調しており、イスラエル訪問後、カタールを訪れたルビオ国務長官との協議においても、非常に激しい不満をアメリカ政府にぶつけたようです。

一応、ムハンマド首相によると、カタール政府は仲介を続ける意向とのことですが、国内からの非難の高まりと、アラブ諸国からのプレッシャーに晒され、いつ何時、仲介を停止するかわからないとのことです。

もしカタール(そしてエジプト)が仲介から手を退くことになれば、ハマスは和平交渉から撤退し、さらなる武力抗争とイスラエルへの攻撃が加速し、そしてそれがまたイスラエルの苛烈な反応を誘発するという、究極の悪循環を生み出しかねないと懸念しています。

しかし、イスラエル側はそれをどうも歓迎しているようにも見えてなりません。

ネタニエフ首相の“本心”は、自らの保身へのこだわりを除けば、ちょっと読み切れないのですが、連立を組む極右勢力はこれを機に、ガザはもちろん、パレスチナそのものの消滅を画策し、ヨルダン川西岸地区へのユダヤ人入植を加速させていますし、同時に大イスラエル主義を堂々と掲げ、その範囲はシリア、レバノン、ヨルダンそしてその先にまで広げることを画策しています。

アラブ諸国は反応し、イスラエルに非難をぶつけても、どうせ何もできないと高を括っているように見えますが、中国とロシアの影響力の行使を通じて、アラブ諸国とイラン、そしてトルコが連帯を深め、中東におけるイスラエルの一強状態に抗すると同時に、イスラエルを庇い続けるアメリカとの対立も鮮明化させる現象が次第に目立ってきているように見えます。

そしてそれはこれまで一枚岩と思われてきた欧米の分断を加速させ、英仏伊はイスラエルとの距離を広め、英仏に至ってはパレスチナ国家の承認手続きを本格化させ、イスラエル制裁の発動に向けたプロセスも本格化させて、親イスラエル一辺倒のアメリカとの決別も模索し始めています。

カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなども、イスラエル絡みでは欧州各国と行動を共にしていますが、この流れ・分断が本格化するか否かは、近日中に示されることになるドイツの出方次第かと考えています。

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