プーチンが打って出たNATOの結束を試すといういやらしい戦略
この欧米諸国の分断は、実は対ウクライナでも鮮明になってきています。
8月15日の米ロ首脳会談(アンカレッジ)後、ワシントンDCに押し掛け、欧米の連帯を示したように思われていましたが、“ウクライナへの安全の保証の確保”という総論では合意しつつも、アメリカが直にアメリカ軍を派遣することはなく、あくまでも欧州各国が各国軍をウクライナに派遣・駐留させ、そのバックアップをアメリカの空軍が行うかもしれないという形式で、実質的にアメリカは対ロ制裁および抑止力としては本格的には参画しないことが明確になっています。
欧州としてはアメリカが来ないのであれば迅速な派兵は難しいとの立場があり、国内における対ウクライナ支援疲れと経済のスランプを受けて、なかなか動きが取れずにいます(結果として、口だけ出して、金も軍備も出さない欧州が誕生してしまいます)。
プーチン大統領はそれを存分に利用し、欧米のスプリットを鮮明にして、ロシアの影響力を高めるための攻勢をかけています。
まず8月15日の米ロ首脳会談では“戦争終結”を意味する“和平”に合意し、ゼレンスキー大統領との直接会談の可能性にも言及しましたが、この会談はプーチン大統領に時間稼ぎを許しただけでなく、ロシアとプーチン大統領を国際舞台のスポットライト下に復帰させることに貢献しました。
その後、8月30日から中国・天津市で行われた上海協力機構(SCO)の首脳会議に始まり、9月3日に北京で開催された中国の対日戦勝記念式典と軍事パレードにも参加して、インドをはじめとするグローバルサウス、中国と北朝鮮、スタン系の国々、イラン、そして親ロといわれるセルビアとの絆の強まりをアピールすることに繋げました。
セルビアについては、ご存じの通り、EU入りの交渉を行っている最中ですが、旧ユーゴスラビア内戦およびコソボ紛争の際に、セルビアを敵視した欧州に対する怒りと、救いの手を差し伸べたロシアへの感謝と信頼が交錯し、EU内の東欧諸国(仏独伊中心のコントロールに不満を抱く国々)のブリュッセル離れを演出しています。
またセルビアがかつて欧米からの経済制裁に直面した経験に即し、欧米が強化を目論む対ロ経済制裁は「問題を解決することはない」とこき下ろし、ハンガリーなどと共に、欧州内の攪乱要因になりつつあります。
欧州およびアメリカの結束の乱れを見越して、ロシアは無人ドローン(おとりを含む)と弾道ミサイルを大量投入してウクライナ全域のインフラに対する徹底的な破壊を実施し、ウクライナからのいかなる反抗もすべて国内における対ウクライナ戦へのバックアップとして用いる戦略を徹底しています。
そして欧州の覚悟を試すべく、囮ドローン(安価なもので、かつ弾薬を積まないことで相手国に被害は与えないが、相手の防空ミサイルを消費させ疲弊させる狙いを持つとされる)を越境させてポーランドやルーマニアの領空侵犯を強行して、NATO憲章第4条と第5条の発効基準とNATOの結束を試すといういやらしい戦略に打って出ています。
欧州各国としてはNATOの結束をアピールしたいところですが、ロシアの行いを強く非難はしても、NATOとして行動を行うことがロシアからの報復を招くことになる恐れがあると考えて強硬策には出られずにおり、見事にロシアの術中にはまっていると思われます。
今後、アメリカがどのように反応するのかが見ものですが、ポーランドとルーマニアへのドローンによる領空侵犯は一切の被害を生み出していないことと、ウクライナに直接的に引きずり込まれることを強く警戒していることもあり、アメリカの非難は口だけのものに終わり、イスラエルに対するのと同様、ロシアに対ウクライナおよび周辺国への攻撃を“容認”するような結果になるのではないかと恐れています。
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